この記事の監修者 白濱 龍太郎|医学博士・産業医 この記事の監修者 白濱 龍太郎|医学博士・産業医 筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。 同大学睡眠制御学快眠センター等での臨床経験を生かし、睡眠、呼吸の悩みを総合的に診断、治療可能な医療機関、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック、RESM新東京スリープメディカルケアクリニックを設立運営。 慶應義塾大学訪問教授、順天堂大学客員准教授、福井大学客員准教授を兼任し、医学研究、教育活動にも取り組んでいる。 「しっかり寝たはずなのに、朝から体が重い」「夜中に目が覚めて、すっきりしない」。そんな日が続くと、もっと気持ちよく眠りたくなりますよね。 眠りを整えるために大切なのは、長く寝ることだけではありません。朝起きたときに「よく休めた」と感じられるかどうかも、心地よく眠れているかを知る目安の一つです。 この記事では、睡眠の質が下がる原因と、朝日を浴びる・体を動かす・湯船につかるなど、今日から取り入れられる改善方法をご紹介します。ぐっすり眠って気持ちよく朝を迎え、日中を軽やかに過ごすために、できることから見直してみましょう。
質の良い睡眠とは?翌朝の休まった感覚 「何時間寝たか」だけで、よく眠れたかどうかは決まりません。 厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠を考えるうえで、十分な睡眠時間をとることに加えて、朝起きたときに「よく休めた」と感じられることも大切にしています。 たとえば、同じ7時間眠っていても、朝すっきり起きられる日もあれば、「まだ眠い」「疲れが残っている」と感じる日もあるでしょう。つまり、目指したいのはただ長く眠ることではなく、必要な睡眠時間をとり、朝に「よく眠れた」と感じられることです。 あなたの睡眠は大丈夫?質をチェック 「自分は眠れているほうだと思うけれど、本当に十分なのかな?」と思ったら、ここ1週間ほどの朝や日中の様子を振り返ってみましょう。 【最近、こんなことはありませんか?】 朝起きても「よく眠れた」と感じられない 目覚ましが鳴っても、なかなか布団から出られない 夜中に何度か目が覚める 昼間に強い眠気を感じることがある 仕事や家事に集中しにくいと感じる 休日になると、平日よりかなり長く寝ている 寝る時間や起きる時間が日によって大きく変わる いくつか当てはまっても、すぐに「睡眠に問題がある」と考える必要はありません。まずは「最近しっかり休めていないかもしれない」と気づくことが、眠りを見直すきっかけになります。 質の前にまずは「量」!6時間以上が目安 睡眠の質が気になると寝具や寝室に目が向きがちですが、まずは眠る時間そのものを十分に確保できているか振り返ってみましょう。 厚生労働省では、成人は個人差を踏まえながら、6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することを勧めています*1。 ただし、「6時間眠れば十分」という意味ではありません。必要な睡眠時間には個人差があるため、6時間を一つの目安にしながら、朝の目覚めや日中の眠気もあわせて、自分に合う時間を見つけることが大切です。 実際、日本では睡眠時間が足りていない人も少なくありません。厚生労働省の「令和6年 国民健康・栄養調査」では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性36.2%、女性38.9%でした。特に30〜50歳代の男性や40〜60歳代の女性では、6時間未満の人が4割を超えていました。まず普段どのくらい眠れているかを振り返ってみましょう。
睡眠の質が下がる4つの要因 眠る時間はちゃんと確保しているのに、朝すっきりしない。その原因は、寝る前ではなく、一日の過ごし方のどこかにあるのかもしれません。 寝る時間やストレス、普段飲んでいるもの、寝室の環境など、眠りにはさまざまなことが関わっています。まずは、自分の生活に当てはまるものがないか振り返ってみましょう。 ①生活習慣の乱れ|「なんとなく夜ふかし」が積み重なっていませんか 「動画をもう一本だけ」「SNSを少しだけ」と思っているうちに、気づけばいつもの就寝時刻を過ぎていた。そんな経験はありませんか。 寝る時刻や起きる時刻が日によって大きく変わると、体内時計のリズムもくずれやすくなります。 特に気をつけたいのが、平日の睡眠不足を休日に取り戻そうとする「寝だめ」です。休日に朝遅くまで眠ると、体内時計が後ろにずれ、日曜の夜になかなか寝つけず、月曜の朝がつらくなることがあります。 ②ストレス|緊張が続くと眠りが浅くなる 仕事で気になることがあった日や、大切な予定の前日に、布団に入ってもなかなか眠れなかった経験がある方もいるでしょう。 心配ごとや緊張が残ったままだと、布団に入っても頭がさえて、なかなか寝つけないことがあります。そのため、寝つきにくくなったり、夜中に目が覚めたりして、朝になっても十分に休めたと感じにくくなることがあります。 厚生労働省の「Good Sleepガイド」でも、ストレスが高い状態のまま寝床に入ることは、睡眠で休めた感覚を下げる要因として挙げられています。 ③嗜好品|夕方の一杯が寝つきを遠ざけているかも 仕事の合間のコーヒーや夕食時のお酒など、いつもの一杯が眠りに関係していることもあります。 コーヒーやお茶などに含まれるカフェインには、眠気を抑える働きがあります。そのため、夕方以降にとると、夜になっても寝つきにくくなる場合があります。 お酒は飲むと眠くなることがありますが、眠りの後半に目が覚めやすくなるなど、睡眠の質を下げることがあります。また、たばこに含まれるニコチンにも目を覚まさせる作用があります。 ④寝室の環境|光・音・冷えで眠りが途切れることも 寝室の明るさや音、温度も、朝まで気持ちよく眠れるかどうかに関わります。 たとえば、テレビをつけたまま眠ったり、枕元に置いたスマートフォンの通知で画面が光ったりすると、眠りを妨げることがあります。外を走る車の音や家族の生活音なども、気づかないうちに睡眠へ影響することがあります。 さらに、夏の暑さや蒸し暑さ、冬の冷えなど、寝室の温度や湿度が快適でないことも、途中で目が覚める原因の一つです。
睡眠の質を上げる9つの方法 睡眠の質が気になっても、生活を一度に大きく変える必要はありません。朝起きる時間をそろえる、朝日を浴びる、少し体を動かすなど、普段の暮らしのなかでできることはたくさんあります。 上から順に試す必要もありません。読みながら「これならできる」と思えるものを一つ見つけることを目指しましょう。 ①毎日同じ時刻に起きるようにする 「早く寝なきゃ」と思うほど眠れない夜がある一方で、起きる時刻は自分で決められます。手をつけやすいのは、実は朝のほうです。 私たちの体には、眠りや目覚めのリズムをつくる「体内時計」が備わっています。この時計は、起きる時刻がそろっているほど安定しやすく、逆に日によってばらつくと、夜の眠気が訪れる時刻もずれていきます。 まずは、自分の生活に合った起床時刻を決め、平日も休日も大きくずらさないことから始めてみましょう。休日に長く眠りたい日でも、いつもの起床時刻から大きくずれない範囲に収めると、リズムが崩れにくくなります。 ②朝の光を浴びて入眠しやすい体に 朝起きたら、まずカーテンを開けて光を取り入れてみましょう。 朝に光を浴びると体内時計がリセットされ、そこからおよそ14〜16時間がたつと、眠気を促す「メラトニン」というホルモンの分泌が高まります。 「夜になってもなかなか眠くならない」という方は、寝る前の過ごし方だけでなく、朝の過ごし方を見直してみるのも一つの方法です。 起きたらカーテンを開ける、朝食を窓辺で食べる、通勤や買い物のときに外を歩くなど、無理なく日光を浴びる時間をつくってみましょう。 ③日中に適度な運動をする 日中に体を動かす習慣も、心地よい眠りにつながります。 厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適度な運動習慣は睡眠の質を高めることにつながるとされています。 大切なのは、無理に激しい運動をすることではなく、続けられる形で体を動かすことです。 たとえば、買い物に歩いて出かける、一駅分だけ歩く、家事の合間に軽く体を伸ばすなどでも、日中の活動量を増やせます。 ただし、寝る直前の激しい運動は体を興奮させ、かえって寝つきを妨げることがあります。頑張りすぎず、日中に気持ちよく体を動かすことから始めてみましょう。 ④カフェインは「量×時間×体質」で調整する 「夕方にコーヒーを飲んでも普通に眠れる」という方もいるでしょう。しかし、カフェインの影響は、飲む量だけでなく、時間や体質によっても変わります。 厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の場合、 カフェインの摂取量が1日400mgを超えると、眠りにくくなる可能性があるとされています*1。これはコーヒーではおよそ3~4杯分が目安です。寝る直前だけ控えればよいとは限りません。就寝6時間前のカフェイン摂取でも、睡眠時間が短くなったとする研究があります*2。 カフェインへの反応には個人差もあります。「午後にコーヒーを飲んだ日は寝つきにくい」と感じるなら、少し早い時間に切り替えてみるのもよいでしょう。 ⑤就寝の1~2時間前に入浴して体を温める 一日の終わりに湯船につかることも、眠りにつく準備の一つになります。 人は、眠りにつく前に体の内部の温度(深部体温)が下がっていきます。眠気は、この「下がる途中」でやってきます。そのため入浴でいったん体を温め、その後に深部体温が下がっていくことで、自然な眠気が訪れやすくなります。 入浴は、寝る1〜2時間ほど前を目安にするとよいでしょう。約40℃のお湯にゆっくりつかるなど、自分が心地よいと感じる入り方がおすすめです。全身浴が苦手な方は、腹部あたりまでお湯につかる半身浴を取り入れる方法もあります。お風呂でほっとひと息つく時間を、眠るための準備にしてみましょう。 ⑥寝る直前に食事やアルコールを摂らないようにする 帰宅が遅くなった日に、夕食を食べてすぐ布団に入ることはありませんか。夜遅い時間の食事や間食は、体内時計を遅らせたり、翌朝の「よく休めた」という感覚を損ねたりする可能性があります。夕食は、できれば就寝の2〜3時間前までに済ませましょう。どうしても夕食が遅くなる日は、消化しやすいものを少量にするなど、軽めの食事を意識してみましょう。 また、「お酒を飲むと寝つける」と感じる方もいるかもしれません。ただ、アルコールが寝つきをよくするのは一時的で、習慣的な寝酒は睡眠の質の悪化と関連があるとされています。さらに尿の量を増やす働きもあるため、トイレで起きる一因にもなります。 お酒をやめる必要はありませんが、お酒を飲む場合は、寝る直前の一杯を、夕食時に前倒しするよう心掛けるだけで夜の後半の眠りは変わってくるかもしれません。 ⑦就寝前1時間はリラックスタイムにする 布団に入る直前まで、スマートフォンで動画やSNSを見てしまう方も多いでしょう。 スマートフォンやパソコンなどの明るい光を夜に浴びると、眠りにつく時刻が遅くなる可能性があります。また、ゲームや動画、SNSなどに夢中になることで、頭がさえてしまうこともあります。 寝る前の1時間は、気持ちを少しずつ休める時間にしてみましょう。たとえば、こんな過ごし方はいかがでしょうか。 リビングにスマホを置いて充電する 静かな音楽を流す 好きな本や雑誌を読む ⑧寝具を見直してみる 毎日使う枕やマットレス、掛け布団も、眠りやすさに関わる身近なポイントです。 寝具 ポイント 枕 首や肩に力が入らず、寝返りを打ちやすい高さか マットレス やわらかすぎて腰が沈まないか硬すぎて一部に負担が集中しないか 掛布団 体を圧迫しない軽さか季節に合った保温性と通気性があるか すべてを買い替える必要はありません。まずは、朝起きたときにどこが重いかを手がかりに、一つずつ確かめてみましょう。 近年は「リカバリーウェア」と呼ばれる機能性パジャマも登場しています。選ぶ際は、締めつけの少なさや肌触りなど、心地よく眠れるかを基準にするとよいでしょう。 ⑨寝室を暗く・静かに・快適な湿度と温度に 最後に見直したいのが、毎晩過ごしている寝室です。 要素 整え方 光 眠るときはできるだけ暗くするのが基本 音 窓を閉める、テレビの音量を下げるなど、できる範囲で 温度 我慢せず、エアコンで心地よいと感じる温度設定に 湿度 高すぎても低すぎても寝苦しくなるため季節に合わせて調整する 特に注意したいのが温度です。「冷房は体に悪いから」と真夏に切ってしまう方は少なくありませんが、暑さで夜中に目が覚めてしまえば、結局その一日がつらくなります。我慢よりも、心地よく眠れることを優先してください。
睡眠の質を上げる第一歩を今夜から 眠りを整えるために、9つの方法をすべて今日から始める必要はありません。 まずは今夜、ゆっくりお風呂に入り、寝る前はスマートフォンから離れて過ごすことから始めてみましょう。それだけで、寝つきの感覚は変わってくるかもしれません。数日試して「前より寝つきやすい」と感じたら、また新しいことを試して、自分に合った方法で睡眠の質を少しずつ上げていきましょう。 *1 健康づくりのための睡眠ガイド2023 p7 *2 Caffeine Effects on Sleep Taken 0, 3, or 6 Hours before Going to Bed (参考文献閲覧日:2026年10月26日) 【監修者コメント】 睡眠充足感を高めるためには、朝起きたときに「よく眠れた」と感じられるか、日中を元気に過ごせているかという視点も大切です。 起床時間をできるだけ一定にする、朝の光を浴びる、日中に適度に体を動かす、就寝前はリラックスして過ごすなど、日々の生活の中でできることから少しずつ取り入れてみましょう。 また、カフェインやアルコールのとり方、寝室の温度や明るさなど、身近な環境を見直すことも睡眠を整えるきっかけになります。 こうした工夫を続けても、日中の強い眠気や朝の疲労感などが続く場合は、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が隠れている可能性もあります。 気になる症状があれば、一人で悩まず専門医に相談してみてください。 新しい習慣を取り入れながら、睡眠の質が改善され、充実した1日を過ごせるようになることを願っています。