ブドウ糖
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ブドウ糖(グルコース)は、果物や穀物など身近な食べ物に含まれる単糖類の一種で、吸収されやすいだけでなく、私たちが活動するための大切なエネルギー源です。体のさまざまな臓器で使われますが、特に脳は多くのブドウ糖を必要とすることが知られています1)。
近年の研究では、ブドウ糖は単なるエネルギー源にとどまらず、集中力や記憶力といった「考える力」にも関わる可能性が示されています。例えば、適切なブドウ糖の供給が、課題への集中や情報の処理を支える働きに関与することが報告されています1,2)。
私たちはこうした知見に基づき、ブドウ糖の役割をエネルギー供給だけでなく、「脳の働きを支える要素」「脳の働きを向上させる要素」として捉え、認知機能を中心にその可能性を探る研究を進めています。
1) Philipp M. et al. Trends Neurosci. 36 (10), 587 (2013)
2) Sünram-Lea, S.I. et al. Proc. Nutr. Soc. 76, 466 (2017)
脳神経活動は通常の栄養状態においては主にブドウ糖に依存していることが知られており、ブドウ糖には、食べると「集中できる」、「リフレッシュできる」などの経験談がありました。しかし、これまでは科学的な検証や裏付けがなされていませんでした。そこで、近年ヒトでの脳認知機能や課題処理能力評価法として開発された「Cognitrax(コグニトラックス:株式会社ヘルス・ソリューション)」を用いて、ブドウ糖を摂取した後、短期の認知機能、課題処理能力や注意力などに与える影響について検討しました。
健常な男女14名を対象に、ブドウ糖(含水結晶ぶどう糖)26gを含むラムネ菓子29g、または対照食品を29g摂取してもらい、認知力を測定するコンピュータテストCognitraxを実施しました。
その結果、ブドウ糖の単回摂取により、認知機能の一部である「ワーキングメモリ」と「持続的注意力」のスコアが対照食品摂取と比較して有意に高くなりました。
稲垣宏之ら 薬理と治療 JPT.48(4),599(2020)
このことから、ブドウ糖の単回摂取は、図形に関する情報を記憶するなど一部の脳機能を改善することが示され、認知に関する機能を一時的に改善することが示唆されました。
ブドウ糖が持つさらなる認知機能への効果を検証するために、ストループ色彩単語テスト(SCWT)を用いて、ブドウ糖の摂取がヒトの実行注意に及ぼす影響を検討しました。
健常な男女89名を対象に、ブドウ糖(含水結晶ぶどう糖)26gを含むラムネ菓子29g、または対照食品を29g摂取してもらい、神経心理学的検査であるストループ色彩単語テスト(SCWT)を実施しました。
SCWTは、赤、緑、青、黄色の図形を提示され、その色をできるだけ早く回答するColor patches課題(課題C)、色を表す単語が黒のフォントで表示され、その色をできるだけ早く回答するWord課題(課題W)、色を表す単語がその色と異なるフォントで表示され、単語ではなくフォントの色をできるだけ早く回答するColor-word課題(課題CW)の3つから構成されます。
SCWTの成績を評価する指標のうち、時間干渉指数(TI:課題CWの反応時間-(課題Wの反応時間+課題Cの反応時間)/2)がブドウ糖の摂取により有意に短縮することが分かりました。
また、課題Cにおけるエラー率も有意に減少することが示されました。これらの結果を換言すると、ブドウ糖の摂取により、周囲に注意をそらされることなく、課題に集中する能力である実行的注意力を高める可能性があることになります。
Jiayan Liu et al. Int. J. Learn. Teach 8:136-139 (2022)
今日、全世界でプレイ人口が増え続けているeスポーツはゲーム大会の枠を超え経済、技術、教育などに波及しています。さらに、その勝利のための注意力、ワーキングメモリ、反応時間の向上のために多方面の工夫が試みられており、特に栄養との関係も調べられていますが、プレイ中における脳神経活動に重要なブドウ糖摂取が及ぼす効果については、これまでほとんど調べられていませんでした。そこで、ブドウ糖が、ゲームプレイ中の認知機能に与える影響を検討しました。
健常な成人男性20名(平均年齢 19.85 士 0.96 歳)を対象に、ブドウ糖(含水結晶ぶどう糖)26gを含むラムネ菓子29g、または対照食品を29g摂取してもらい、レースジャンルのゲームプレイ(約30分)前後に認知機能の評価をトレイルメイキングテスト(TMT)により行いました。さらに、ゲームプレイ中の脳波データを測定し、ラムネ菓子摂取条件と対照食品摂取条件との比較で統計解析を行いました。
※トレイルメイキングテスト(TMT):コンピュータ画面上のランダムな位置に表示される数字や文字を順番に早く正確になぞる試験法
eスポーツプレイ前後において、ブドウ糖摂取によりTMTの実行時間が短縮される傾向が見られました。この結果より、情報処理速度や持続的注意といった認知機能を向上させる可能性が示唆されました。
また、ゲームプレイ後25分から28分までの間の脳波を測定したところ、ブドウ糖の摂取ではSMR波のパワー割合が有意に高くなりました。SMR波は、その発生がフロー感覚やゾーン感覚を感じやすいことと相関していることが知られており、これらの結果はブドウ糖を摂取することで、eスポーツプレイ時において集中力を高め維持することができる可能性が示唆されました。
Ryousuke Furukado et al. J. Digital Life 2:11(2022)
ブドウ糖の認知機能への影響について理解を深めるために、ブドウ糖を摂取した際の心理生理的な影響について多面的に検討を行いました。
健常な成人男女17名(平均年齢 23.4 士 2.1 歳)を対象に、ブドウ糖(含水結晶ぶどう糖)26gを含むラムネ菓子29g、または対照食品を29g摂取してもらい、認知機能の評価とともに、fNIRSを用いた脳活動、心理状態へ与える影響の評価を行いました。
ブドウ糖の摂取により、選択的注意力が有意に上昇し、またその時の脳血流(オキシヘモグロビン信号)が有意に増大しました。また、ブドウ糖の摂取により心理質問紙の「エネルギー覚醒」スコアや「活気-活力」スコアが有意に上昇しました。
これらの結果から、ブドウ糖の摂取により、認知テストに対してポジティブな気分で集中して取り組み、脳の一部の機能の活動が活性化することが示唆されました。
瀬戸口裕子ら 薬理と治療 52(6):711-722 (2024)
スマートフォンの普及により、場所を選ばずインターネットが利用できるようになり利便性が高まった反面、スマートフォンの過剰使用による集中力(注意力)の低下1,2)や認知機能への悪影響3)などが懸念されています。当社がこれまで明らかにしてきたブドウ糖摂取による注意力の改善作用が、スマートフォン使用後においても同様にみられるのか検討を行いました。
1) Jacquet T. et al. Sci Rep. 13, 23046 (2023)
2) Fortes LS. et al. J Sports Sci. 38, 552 (2020)
3) Takeuchi H. et al. Hum Brain Mapp. 39, 4471 (2018)
健常な成人男女16名(平均年齢 28.6 士 7.1 歳)を対象に、スマートフォン使用後にブドウ糖(含水結晶ぶどう糖)26gを含むラムネ菓子29g、または対照食品29gを摂取した時の注意力、脳波、集中力に関する主観評価へ与える影響をクロスオーバー試験法にて評価しました。来院した参加者は、注意力テスト注1)を受けた後、課題に従って30分間のスマートフォンを用いたインターネット検索を行いました。そして試験食品を摂取し、摂取開始から15分後に再び注意力テストを受けました。脳波は、来院後の安静時と2回の注意力テストの際に、前額部3ヶ所に電極のついた簡易型脳波計を用いて測定しました。集中力に関する主観評価については、来院時、スマートフォン使用後、および2回の注意力テスト後にVASアンケートを用いて測定しました。
参加者全員注2)のデータを用いて、ブドウ糖摂取時と対照食品摂取時の結果を比較しました。
注1)Cognitrax (コグニトラックス)の注意力評価に関する4種類のテストを実施。
実施テスト:ストループテスト、注意シフトテスト、持続処理テスト、4パート持続処理テスト
注2)脳波のみ正常に脳波データが取得できなかった2名を除く14名のデータについて解析
ブドウ糖摂取時はプラセボ摂取時と比較して、4パート持続処理テストのパート2における平均正解応答時間と誤応答のスコアが有意に高く(図1)、その際に集中状態で高まる報告のあるベータ波4,5)という脳波の低下が、前額部右側において有意に抑制(図2)されました。また、VASアンケートでも身体的疲労感、頭のすっきり感が有意に改善しました(図3)。
4) Hagiwara, G. et al. J Digit Life. 1, 1 (2021)
5) Lim, S. et al. Sensors. 19, 1669 (2019)
この結果から、スマートフォン使用後にブドウ糖を摂取することによって、持続的注意力が改善し、その際に脳波や心理状態も集中状態を示している可能性が示唆されました。
Yuko Setoguchi et al. Foods, 14(24), 4233(2025)
我々はこれまで、ブドウ糖の認知機能へ与える影響について科学的な裏付けを蓄積してきましたが、それ以外の機能についても研究を進めています。その一つとして、飲酒後にブドウ糖を摂取すると、悪酔いや不快感が改善したという経験談に着目しました。しかし、飲酒後の酔いの状態にブドウ糖摂取が与える影響については、これまではっきりとは分かっていませんでした。そこで、ブドウ糖が、飲酒後における酔いの状態に与える影響を検討しました。
健常な成人男女15名(平均年齢 35.3 士 2.4 歳)を対象に、焼酎(アルコール度数:25度)125 mLを摂取してもらった1時間後に、ブドウ糖(含水結晶ぶどう糖)26gを含むラムネ菓子29g、または対照食品を29g摂取してもらい、VASアンケートによる主観的な酔いの感覚の評価を行いました。
飲酒後2時間の時点で「ふらつき」、3時間の時点で「疲労感」「だるさ」の感覚について、ブドウ糖の摂取により、対照食品に対して有意な改善が認められました。
これらの結果より、ブドウ糖の摂取は、飲酒後の酔いの感覚を改善する可能性が示唆されました。
稲垣宏之ら 薬理と治療 49(9):1507-1517(2021)
※本研究結果は、飲酒を推奨するためのものではありません。
自分にあった飲酒量を決めて、健康に配慮した飲酒を心がけることが大切です。(厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」)
ブドウ糖は、人間の身体や脳にとって重要なエネルギー源です。しかし、健康を保つためには適切な量を摂取することが大切であり、不足や過剰な摂取はさまざまな健康リスクにつながる可能性があります。
血液中のブドウ糖が不足した状態は「低血糖」と呼ばれ、特に糖尿病の治療中の方では注意が必要です。
ブドウ糖は小腸からすばやく吸収され、短時間で血糖値を上昇させる特徴があります。そのため、低血糖への備えとしてブドウ糖を携帯することが推奨されています。中でもブドウ糖を含むラムネ菓子は、コンビニ等でも入手しやすく、持ち運びや保存にも優れていることから、医療現場でも今日広く活用されています。ただしラムネ菓子ならすべてぶどう糖が主原料とは限りませんのでその点は注意が必要です。
一方で、他の糖質同様、ブドウ糖を過剰に摂取すると、血糖値の急激な上昇(高血糖)を招くことがあります。それに伴いインスリンが多く分泌される状態が続くと、膵臓への負担やインスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)につながり、将来的な2型糖尿病のリスクが高まる可能性があります。また、余分なブドウ糖は中性脂肪として蓄えられ、肥満や脂質異常症、脂肪肝などの生活習慣病の一因となることも知られております。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」ですのでくれぐれも過度な摂取は控えてください。
さらに健常な方でも登山や長時間の運動などでは血糖値が低下することがあります。このような場合、「だるさ」や「強い空腹感」、「集中力の低下」などが現れ、日常生活や活動の質に影響を与えることがあります。古くから山歩きではこれを「ひだる神に取り憑かれた」と表現することもあり、こうした状態の改善にもブドウ糖は有効とされています。
これらの特徴を理解し、状況に応じて上手にブドウ糖を取り入れていただければ幸いです。
自治医科大学 医学部 救急医学講座教授
間藤 卓 先生
1986年に新潟大学医学部を卒業後、東京大学附属病院にて臨床研修を修了。その間に、墨東病院救命センター勤務などを経て、1996年から埼玉医科大高度救命救急センターに所属し、急性期医療、特に集中治療について、診療・研究、および教育や医療機器の開発などに精力的に取り組まれている。2016年より自治医科大学 講座教授に就任し、現在に至る。
(2026年3月現在)