研究成果 ココア

1.ココアについて

ココアはチョコレートと同じカカオ豆が原料です。カカオの木から収穫された豆は、発酵、乾燥後、殻が除かれ、焙煎を経て磨砕されて、液体のカカオマスになります。このカカオマスからカカオバターを搾ったものがココアになります。ココアは油脂が除かれており、カカオ豆に本来含まれるポリフェノールなどの機能性成分や、リグニンなどの食物繊維、ミネラル成分を豊富に含みます。
特に重合度の低いカカオのポリフェノールのうち、カカオフラバノールと呼ばれる成分は、世界中で健康機能に関する研究が進められ、その機能性が次々明らかにされつつあります。私たちは20年以上ココアの幅広い機能性を科学的に検証しています。

2.ココアのピロリ菌抑制効果

杏林大学との共同研究
ピロリ菌(H.pylori)は、胃炎や胃潰瘍に密接なかかわりがあり、胃がんの危険因子とされています。そこで、ココアのピロリ菌に対する作用についてin vitroおよびin vivoレベルで検証しました。

in vitro 1>ピロリ菌の胃上皮細胞への付着に対するココアの効果について、ヒト胃癌細胞株(HGC-27)を用いて評価しました。培養したHGC-27に、嗜好飲料(ココア、ウーロン茶、紅茶、緑茶、コーヒー)の熱水抽出液を一定量加えた後、蛍光標識したピロリ菌の懸濁液を加え、HGC-27と反応させました。反応後、蛍光顕微鏡下で細胞に接着したピロリ菌数を測定しました。

その結果、ココア、ウーロン茶、紅茶が高い効果を有していましたが、ココアが最も少ない添加量でピロリ菌の接着を阻害し、ピロリ菌の胃上皮細胞への付着抑制効果が最も高いことが分りました。

in vitro 2>ピロリ菌の増殖に対するココアの効果について評価しました。培養したピロリ菌に、ココア熱水抽出液を添加すると、ピロリ菌の増殖が抑制されました。なお添加量は、通常の飲用濃度付近である3.5%で効果が見られ、濃度10%で添加した場合には、さらに強い増殖抑制効果が認められました。

in vivo3>ココアによるピロリ菌の胃内定着阻止効果について、無菌マウスを用いて検証しました。無菌マウスにココアとピロリ菌を同時に3日間連続投与したところ、感染は認められませんでした。一方、ピロリ菌のみ投与したコントロール群では、投与後3日目に50%、7日目に100%で全てのマウスでピロリ菌の感染が認められました。

in vitro 4>ココア中のどの成分がピロリ菌増殖抑制効果を有するのかを検証しました。ピロリ菌培養培地中にココアの可溶性成分を加えたところ、ピロリ菌増殖抑制効果が認められ、不溶性成分では認められませんでした。

そこで、ココアの可溶性成分中の活性成分を分析したところ、遊離脂肪酸であることが判明しました。ココアに含まれる主な遊離脂肪酸が飽和脂肪酸のパルミチン酸とステアリン酸、不飽和脂肪酸のオレイン酸とリノール酸であることから、これらのいずれかが増殖抑制活性を有すると考えられ、遊離脂肪酸の試薬を用いてピロリ菌増殖抑制活性を測定しました。その結果、オレイン酸、リノール酸に強い活性があり、パルミチン酸、ステアリン酸には活性がないことが明らかになりました。

以上のことから、ココアはピロリ菌の胃内への定着を阻止するだけでなく、胃内におけるピロリ菌の増殖を抑制することがin vitroおよびin vivoレベルで明らかとなりました。また、その活性成分は不飽和脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸であることが示されました。

佐藤進ら. Progress in Medicine 19(5), 1207 (1999)

3.ココアの歯周病関連菌に対する抗菌効果

近年、歯周病は一部の生活習慣病と密接に関わることが示されています。そして、現在成人の80%以上が歯周病であるといわれています。そこで、歯周病に関連する主要な菌である、ジンジバリス菌(P. gingivalis)、ゾバクテリウム菌(F. nucleatum)、インターメディア菌(P. intermedia)を用い、ココアの抗菌効果をin vitroおよびin vivoレベルで検証しました。

in vitro1>歯周病関連菌の培養培地中にココアを添加したところ、ココアの添加量が多いほど抗菌効果が強く見られることが分かりました。また、飲用濃度に近い3% ココアを添加した場合において、 ジンジバリス菌は培養1時間後、 フゾバクテリウム菌は培養3時間後に生菌数は検出限界以下になりました。
以上の結果から、ココアは2種の歯周病関連菌に対し、 非常に優れた抗菌効果があることがわかりました。

in vitro2>歯周病関連菌であるジンジバリス菌を用い、ココアとポリフェノールを含む他の嗜好飲料(紅茶、烏龍茶)の抗菌効果を比較検証しました。試験飲料は、熱湯で抽出してポリフェノール濃度が0.15mg/mLになるように調製し、ジンジバリス菌培養培地中に添加しました。
その結果、生菌数の減少はココアが最も強く、次に紅茶に強い抗菌効果が認められました。通常飲用濃度に含まれるカップ一杯当たりのポリフェノール量をみると、ココアには紅茶の約4倍多く含まれますので、通常飲用時にはココアが最も抗菌効果を発揮する飲料であることが判明しました。

<試験>歯周病関連菌に感染している18名を対象に、ココアを2週間摂取してもらい、ココアが口腔内の細菌数および口臭に及ぼす影響について検証しました。試験には歯に影響のない甘味料を100%ココアパウダー添加して調製したココア飲料を用いました。
その結果、唾液中の総細菌数において、ココア摂取による有意な変化は認められず、ココアは常在菌には影響を与えないことがわかりました。一方、歯周病関連菌であるジンジバリス菌、フゾバクテリウム菌、インターメディア菌の総細菌数に対する割合は、ココア摂取により減少する傾向が認められました。さらに、ある程度口臭が強い8名を対象とした層別解析の結果、ココア摂取群において、飲用2週間後の呼気中の揮発性硫黄化合物の量が飲用前に比べて減少していました。しかし、ココア摂取を中止すると口臭の強さは元に戻りました。
以上の結果から、ココアを摂取することで、口腔内の歯周病関連菌の数および呼気中の口臭成分を減少させる機能があることが判明しました。

以上のことから、ココアは歯周病関連菌に対し非常に優れた抗菌効果をもち、他の嗜好飲料に比べてもその効果が優れていることが分かりました。また、ココアを摂取することで、口腔内の歯周病関連菌に特異的にその効果を示し、呼気中の口臭成分を減少させたことから、お口の健康に役立つ可能性が示唆されました。

4.ココアのインフルエンザウイルスに対する感染抑制効果

多くの抗菌作用をもつココアのウイルスに対する効果について、in vitroレベル及びヒト試験で検証しました。

in vitro 1>インフルエンザウイルスの代表として季節性インフルエンザウイルスA型2種類〔A/New Caledonia/20/99(H1N1)およびA/Wyoming/3/03 (H3N2) 〕とB型1種類(B/Shanghai/361/02 )および鳥インフルエンザウイルス2種類
〔A/Turkey/Ontario/7732/66(H5N9)およびA/Kyoto/04(H5N1)〕を用いて、イヌ腎臓上皮細胞株であるMDCK細胞への感染に対するココアの感染抑制効果について、ココアの熱水抽出液を用いて検証しました。
その結果、ココア熱水抽出液を培養液に添加すると、全てのインフルエンザウイルスにおいて濃度依存的に感染を抑制することが分かりました。また、ココア熱水抽出液はMDCK細胞に対し細胞毒性を認めませんでした。

M. Kamei et. al., J. Sci. Food Agric. 96(4), 1150 (2016)

in vitro 2>ココアがインフルエンザウイルス〔A/Wyoming/3/03 (H3N2)を使用〕に対する感染抑制効果を発揮するメカニズムについて検証しました。
ココアの熱水抽出液を、ウイルス吸着前(添加時間が感染30分前から感染時まで)、吸着時(添加時間が感染時から1時間後まで)、吸着後(添加時間が感染1時間後から16時間後まで)に、それぞれ培養液中に添加して感染細胞数を調べました。
その結果、ココア熱水抽出液をウイルスの吸着時に存在させた時のみ感染が抑制され(感染抑制率100%)、ウイルス吸着前、ウイルス吸着後に添加した場合は抑制率が低く、効果が認められませんでした。
以上の結果から、ココア熱水抽出液はインフルエンザウイルスが細胞に吸着する際に、その吸着を阻害することで感染を抑制する可能性が示されました。
なお、感染抑制活性を有するココア中の成分は、可溶性のポリフェノールとその他の少なくとも2種類の感染抑制活性成分が存在することを確認しています。

M. Kamei et. al., J. Sci. Food Agric. 96(4), 1150 (2016)

<ヒト試験>インフルエンザ対策としてのココアの有効性について、ヒト試験で検証しました。新型インフルエンザに罹患歴がない健常成人123名を対象に、カカオ濃度が2倍のココアパウダー(森永製菓製)をお湯に溶解した飲料を、抗新型インフルエンザワクチン接種1週間前から接種後2週間の計3週間、1日1杯午前中に摂取してもらい、新型インフルエンザウイルス中和抗体価、ナチュラルキラー細胞活性(NK活性)への影響を測定しました。
その結果、新型インフルエンザウイルスに対する中和抗体価において、ココア群は、お湯を摂取した対照群とともに上昇がみられましたがココア群と対照群の間に、有意な差は認められませんでした。
一方、NK活性において、ココア群は対照群と比べて、有意なNK活性の上昇が認められました。NK活性は自然免疫力の一つの指標であることから、ココアにはヒトの自然免疫力を高めて、ウイルス感染を抑制する機能を持つ可能性が示されました。

5.ココアの整腸作用(便通改善・便臭抑制機能)

ココアには、カカオフラバノール等のポリフェノールやミネラルの他、不溶性の食物繊維も豊富に含まれています。この不溶性食物繊維中で約60%と最も多く含まれるリグニンに着目し、整腸作用について検証しました。20〜60歳の便秘傾向であるが健康な男女22名を対象に、甘みを加えたリグニンを含むココア飲料、ココア不含のプラセボ飲料をそれぞれ2週間ずつ摂取してもらい、排便回数・量、便性状、便臭についてクロスオーバー試験にて検証しました。
その結果、排便回数において、ココア摂取群ではプラセボ群と比べ、有意な増加がみられました。また、便臭(アンモニア量)の変化において、ココア摂取群はプラセボ群に比べ有意に減少しました。
以上のことから、不溶性食物繊維であるリグニンを豊富に含むココアを摂取することで、排便回数が改善し、便中のアンモニア量減少による便臭の抑制作用が確認されました。

杉山和久ら. 薬理と治療. 45(4), 653 (2017)

6.ココアの冷え性改善効果

冷えやすい体質である「冷え性」を自覚する若い女性を対象に、70〜75℃に調製したココアを摂取してもらい、冷え性に対する効果を検証しました。その結果、医用サーモグラフィー「インフラアイ」(日本光電工業製)を用いて測定した手の甲の体表面温度において、ココア摂取群は、コーヒー摂取群、緑茶摂取群、お湯摂取群と比べ、温度の上昇維持を長く保つことが分かりました。
さらに、ベッドサイドモニターBSM-2301(日本光電工業社製)を用いて測定した指先の血流量変化において、ココア摂取群はコーヒー摂取群と比べて、血流量が増加しました。

以上のことから、ココアを摂取することで、体表面温度の維持効果が認められ、さらにこれは血流量変化に伴って発揮された効果であることが示唆されました。
なお、この効果は、試験飲料の温度を0〜3℃に調節して実施した場合でも同様の結果になることを確認しました。

亀井優徳ら. 食の科学. 2, 4 (2003)
灘本知憲ら. 女性の疾患と美容のための機能性素材の開発. 32 (2014)
有山愛ら. Nippon Shokuhin Kagaku Kaishi. 56(12), 628 (2009)

7.ココアによるウォーミングアップ運動効果の維持・増進機能

足利大学との共同研究
運動を始める前の準備運動として行うウォーミングアップ運動には、体温・代謝・筋温の上昇、関節可動域の増大による柔軟性の向上、神経作用の亢進、整形外科的障害の予防及び心理的な効果があります。しかし、このウォーミングアップ効果は、時間の経過とともに消失するため、効果を持続させるのは困難です。そこで、ココアに含まれるカカオポリフェノールには、血流改善効果や冷え性改善、体表温度維持効果があることから、 ウォーミングアップ効果の持続に寄与するのではと考え、試験を実施しました。

<試験1>テニス部に所属する男子大学生を対象に、ココアに含まれるポリフェノールであるカカオフラバノールを摂取してもらい、ウォーミングアップ効果の持続性について検証しました。
その結果、ウォームアップの前にカカオフラバノール含有飲料を摂取したカカオフラバノール群と、カカオフラバノールおよびショウガエキス含有飲料を摂取したカカオフラバノール・ショウガ群は、風味をそろえたプラセボ飲料を摂取したプラセボ群に比べ、身体柔軟性、筋力、瞬発力およびパフォーマンス力、腓腹筋内側部の筋硬度において、ウォーミングアップ終了後30分から90分の間、有意に高い値を維持していました。なお筋硬度については、室温を15℃、25℃に調節した場合でも同様の結果が確認できました。

一方、深部体温においては、試験飲料による温度変化への影響に差異は認められませんでしたが、体表面温度において、フラバノール群およびフラバノール・ショウガ群は、プラセボ群に比べ、試験環境室温15℃湿度40%においては、ウォーミングアップ終了後90分の時点で、試験環境室温26℃湿度40%および室温20℃湿度40%ではウォーミングアップ終了後60分から90分の間で、有意に高い値が維持されました。

以上のことから、若年成人においてカカオフラバノールをウォーミングアップ運動の前に摂取することは、ウォーミングアップ運動による効果を延長させ、その後の身体機能に良い影響を示すことが明らかとなりました。

<試験2>健康な高齢者におけるウォーミングアップ効果についても検証しました。
足利市市役所福祉部いきいき長寿課(2016年度より健康福祉部 元気高齢課に改定)が主催する高齢者を対象とした「いきいき元気アップ塾」のサポーターとして活躍する、64〜73歳の健康な高齢男女10名を対象に、若年成人を対象に行った<試験1>と同様に、カカオフラバノール摂取によるウォーミングアップ運動の効果について検証しました。

その結果、柔軟性の指標とした長座体前屈、脚伸展筋力、末梢循環亢進効果を示す皮膚表面温度の持続性における下腿後面および足背部の体表面温度において、カカオフラバノール群は、プラセボ群に比べ、ウォーミングアップ終了後60分から90分の間、有意に高い値を示しました(下図)。

さらに、高齢者の転倒防止に関連する項目として、柔軟性や筋力以外に挙げられる平衡機能(バランス)においても、カカオフラバノール群は、プラセボ群に比べ、ウォーミングアップ終了後30分から90分の間、有意に高い値が維持されました。

なお、本試験は夏季に行われたものですが、冬季に実施した試験においても同様の結果が得られています。
以上のことから、若年成人においても、高齢者においても、カカオフラバノールをウォーミングアップの前に摂取することで、ウォーミングアップ効果の延長が示されました。さらに、ココアに含まれるカカオフラバノールには、年齢や季節を問わずスポーツを行う方のウォーミングアップ運動の効果を持続させる機能があることが明らかとなりました。

大久保絢夏ら. 薬理と治療. 47(6), 917 (2019)
今田陸将ら. 薬理と治療. 46(4), 599 (2018)
大久保絢夏ら. 薬理と治療. 46(4), 609 (2018)

8.ココアの体内水素産生調節機能

水素分子は、腸管内で産生された後、血液や組織中に拡散して活性酸素(ヒドロキシラジカル)の作用を弱めることで、様々な酸化ストレスを低減する効果が注目されています。牛乳はカルシウムの摂取とならび生体内水素源としても重要と考えられます。
そこで、21〜49歳の健常成人男女を対象に、ココア、ココアと牛乳を摂取した場合の、体内水素産生についてクロスオーバー試験にて検証しました。
乳糖の消化能力によって被験者を層別し、牛乳飲用後の水素産生量の高いグループ(図○)と低いグループ(図○)に分け、比較解析しました。
その結果、ココア摂取による水素産生は、乳糖の消化能力の低いグループにおいて認められました。また、ココア・牛乳同時摂取による水素産生は、乳糖の消化能力が高いグループでは強まり、乳糖の消化能力が低いグループでは抑えられました。

以上のことから、ココアの体内水素調節機能が明らかとなりました。また、乳糖の消化能力が低く牛乳飲用によりお腹が緩くなりがちな方がココアを摂取することで、体内の水素産生が抑えられ、牛乳飲用による不快感を低減するのにも役立つ可能性が示唆されました。

稲垣宏之ら. 安定同位体と生体ガス医学. 9(1), 11 (2017)

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