健康機能の研究成果

Eルチン
(酵素処理ルチン)

1. Eルチン(酵素処理ルチン;EMIQ)とは

Eルチンは、ケルセチンにグルコースを付加して水溶性を向上させ、吸収を改善した誘導体で、酵素処理ルチンやEMIQ(Enzymatically modified isoquercitrin)とも呼ばれています(構造図参照)。ケルセチンはポリフェノールの一種でフラボノイド類に分類されており、リンゴ、タマネギ、ブドウ、ブロッコリーなどに含まれ、さらにこのケルセチンにβ-ルチノースが結合した形のルチンは、ソバの実、アスパラガス、エンジュの花、柑橘類の果物や果皮などに含まれています。これらケルセチンやルチンは、抗酸化機能や筋肉、運動に対して有用な機能性が多く報告されていますが、いずれも消化管から体内への吸収効率が良くありません。
一方、ケルセチン誘導体であるEルチンは、水溶性が高く、吸収効率が劇的に向上しており、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)はケルセチンの17倍、ルチンの23倍以上になります。さらにEルチンは、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)より、安全な食品としてGRAS(Generally Recognized As Safe)の認証を受け、日本でも食品添加物として認められています。
なお、森永製菓のEルチンは、マメ科の植物であるエンジュ(写真)由来のルチンを酵素処理したものを使用しており、そば由来原料は使用していません。

  • ケルセチン・ルチン・Eルチンの構造式
    *K.Murota et al., Arch Biochem Biphys.501, 91-7 (2010)
  • エンジュの花

2. 筋量増加作用

筑波大学との共同研究
アメリカンフットボール部に所属する男子大学生39名を対象に、EMIQを42mg含むホエイプロテインを週に6回4カ月間摂取してもらい、体重および体組成、酸化ストレス度測定(BAP/d-ROMs比)を測定しました。
激しい運動を行うために、しっかり食事を摂っていても体重が減少しがちなシーズン中のアメリカンフットボール選手において、EMIQを含むプロテイン摂取が体重や除脂肪体重(筋肉量)を維持・増進することが出来るかを検証しました。
その結果、EMIQ群は、EMIQ不含ホエイタンパクを摂取したプラセボ群に比べ、下肢における筋肉重量及び除脂肪重量が有意に増加し、さらに血中の潜在的抗酸化力が上昇しました。筋肉量においてEMIQ群は、摂取前後の変化量で有意に増加しました。
以上のことから、EMIQをプロテインと同時に摂取することで、酸化ストレスを低減し、筋肉量を増加させることが示されました。

O. Naomi et al., J. Int. Soc. of Sports Nutr. 45, 16 (2019)

3. 運動負荷による筋損傷抑制機能と筋肉量維持増進機能

運動中に発生する活性酸素は筋肉細胞や組織を傷害する恐れがありますが、抗酸化活性の高いEMIQは、活性酸素種の発生を抑制したり、消去したりすることで細胞や組織を守り、筋肉の正常な正常・育成を保護するものと考えられます。そこで、EMIQの抗酸化能による筋肉に対する効果について、in vivoレベルで検証しました。

BALB/c雄性マウスを、通常食、EMIQ0.2%配合食の2群に分け、週に1回10週間、遊泳による運動負荷(13L/minで限界時間まで遊泳)をかけました。
その結果、EMIQ群では、EMIQ不含飼料のコントロール群と比べ、腓腹筋重量が有意に増加しました。なお、体重には両群で有意な変化が見られませんでした。さらに、EMIQ群は、コントロール群に比べ、血中の酸化ストレスマーカーが有意に抑制され、潜在的抗酸化力が亢進しました。なお、BAP値においては、両群で有意な変動が認められませんでした。

以上のことから、運動時のEMIQを摂取は、運動時の酸化ストレスを抑制し、筋重量増加に資することが示唆されました。

    • 腓腹筋
    • d-ROMs
    • BAP/d-ROM比
  • マウスにおける腓腹筋重量、および、血中d-ROMs値、BAP/dROMs比

伊藤良一ら, 日本運動生理学雑誌, 27(2), 27 (2020)

4. 筋肉肥大に及ぼす効果

筑波大学との共同研究
EMIQの摂取による動物の筋肉肥大に及ぼす効果について、2種のin vivo試験を実施し検証しました。

<in vivo 1>ICR雄性マウスを、通常食あるいは0.03%EMIQ配合食、さらにそれぞれに筋肉運動負荷処置あるいは偽処置を施した計4群に分け、3週間飼育した後、足底筋の筋線維横断面積を測定しました。
その結果、EMIQ群はEMIQ不含飼料摂取のコントロール群に比べて、足底筋の筋線維横断面積が有意に大きくなりました。また、EMIQ群では、筋肉負荷をかけることで筋線維横断面積がより大きくなりました。

<in vivo 2>ICR雄性マウスを、標準飼料中たんぱく質をホエイプロテインに置換した試験食、これに0.003%あるいは0.03%EMIQを配合した0.003%EMIQ食、0.03%EMIQ食の3群に分け、筋肉運動負荷処置を施し3週間飼育した後、足底筋の筋線維横断面積を測定しました。
その結果、EMIQ群は、EMIQ不含飼料摂取のコントロール群に比べ、EMIQ濃度依存的に筋線維横断面積が増加しました。

以上のことから、EMIQを摂取すればと、トレーニングしなくても筋肉を肥大させる機能がある可能性が示されました。さらに、EMIQは用量依存的に筋肉を肥大する機能が増強されること、EMIQをホエイプロテインと同時に摂取することでも増強されることが示されました。

A. Kohara et. al., J. Int. Soc. Sports Nutr. 32, 14 (2017)

5. 高齢者の歩行速度

50~80歳の健常な男女24名を対象に、EMIQ42mgを含むカプセルを12週間連続して摂取してもらい、運動機能を測定しました。

その結果、12週間後の10m歩行テストにおいて、EMIQ摂取群はEMIQ不含のプラセボ群と比べて歩行速度が優位に改善し、歩行時間が短縮されました。

以上のことから、EMIQ42mgを12週間連続して摂取することによって、加齢によって低下する歩行機能を維持する可能性があることが示唆されました。

    • 歩行時間の変化量
    • 歩行速度の変化量

6. タンパク吸収促進作用

筑波大学との共同研究
健康な男子大学生10名を対象に、EMIQとホエイプロテインを同時に摂取してもらい、タンパク質(アミノ酸)の消化・吸収に及ぼす影響を検証しました。
その結果、EMIQ+ホエイプロテイン群は、ホエイプロテイン群と比べ、摂取60分後における血中の総タンパク構成アミノ酸(TAA)、必須アミノ酸(EAA)、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の濃度が有意に上昇または上昇する傾向が見られました。個々のアミノ酸では、システイン、チロシン、ヒスチジン、メチオニンにおいて、摂取45分後または60分後における血中濃度が、EMIQ+ホエイプロテイン群で有意に上昇または上昇する傾向が見られました。なお、EMIQ+ホエイプロテイン群で変動しないアミノ酸もありましたが、血中濃度が低下したアミノ酸はなく、EMIQによる吸収抑制は認められませんでした。
以上のことから、EMIQをプロテインと同時に摂取することで、血中アミノ酸濃度がアミノ酸全体として高まりました。つまり、EMIQはタンパク質の吸収を促進する機能を有する可能性が考えられました。

麻見直美ら, 薬理と治療, 48(1), 51 (2020)

7. ソイタンパク質吸収促進

18~30歳の健常な男女16名を対象に、EMIQを含むソイタンパク質を7日間連続して摂取してもらい、経時的血中アミノ酸濃度、筋合成に関係の深いホルモンであるテストステロンおよび生体内抗酸化指数(BAP/d-ROM)を測定しました。

その結果、120分後の血中アミノ酸濃度において、EMIQを含むソイタンパク質群はEMIQ不含のプラセボ群と比べて有意に増加しました。また、テストステロン濃度の曲線下面積(AUC)は、プラセボ群に比べ、EMIQを含むソイタンパク質群で有意に増加しました。さらに、生体内抗酸化指数(BAP/d-ROM)も、EMIQを含むソイタンパク質群で有意に上昇しました。

以上のことから、EMIQ42mgを7日間連続して摂取することによって、ソイタンパク質からのアミノ酸吸収を促進する機能を有する可能性があることが示唆されました。

    • 総アミノ酸濃度
    • テストステロン
    • BAP

N. Omi et al.,:Amino acids, May 8 (2023)

その他の健康機能の研究開発