サステナブルなお仕事No.25

パン屋

田村陽至たむら ようじさん


パン屋

田村陽至たむら ようじさん

「食品ロス」ゼロを実現した
“すてないパン屋”
売れ残りなどが原因で、まだ食べられるものがすてられてしまう「食品ロス」の問題。日本でも対策たいさくが講じられている中、“すてないパン屋”として注目されているのが田村さんのお店だよ。もう何年もパンを1個もすてていないんだって!
Q1.
どんなお仕事クエッ?
パン屋をやっています。ふつうのパン屋とちょっとちがうのは、クリームやあんこなど具材が入っている菓子パンや総菜そうざいパンは一切作っていないこと。種類はたったの4つで、国産有機栽培さいばい※1の小麦と自家製の酵母こうぼ※2を使い、まき石窯いしがまでパンを焼いています。焼き上がるのはずっしり重く、小麦の味わいが豊かで、皮がパリッとした香りのいいパン。

具材を使わずパンの種類も少ない分、作るのに手間とお金がかかりません。だから、いい材料を使っておいしいパンを安く作ることができ、たくさんの人に買ってもらえます。売り方はインターネットでの注文販売はんばいがほとんどで、定期的にとどけるコースが中心。それと少し、レストランなどにとどけています。売れる分だけを作るので、売れ残りはゼロです。2015年の秋ぐらいからパンをすてていません。

ヨーロッパで昔から受けつがれる製法を取り入れているのですが、こうして焼き上げたパンはくさりにくく、日持ちします。だから買った後もすてられにくいという特徴とくちょうもあります。

※1 農薬や化学肥料を使わず、自然界の力を生かした生産方法。
※2 きんの一種で、糖分とうぶんをアルコールと炭酸ガスに分解する。炭酸ガスの作用でパン生地がふくらむ。
店名は「ブーランジェリー・ドリアン」。作るのはハード系(けい)と言われる、皮がかためで歯応えのあるパンを中心とした4種類が基本。いたみにくく、焼き立てよりも数日たった方が香りや味を楽しめる。
店名は「ブーランジェリー・ドリアン」。作るのはハードけいと言われる、皮がかためで歯応えのあるパンを中心とした4種類が基本。いたみにくく、焼き立てよりも数日たった方が香りや味を楽しめる。
昔ながらの薪の石窯で焼く。ガスよりも皮がパリッとし、香りが出る。
昔ながらの薪の石窯で焼く。ガスよりも皮がパリッとし、香りが出る。
Q2.
なぜ、そのお仕事を選んだクエッ?
おじいちゃんの代から続くパン屋をついだとき、お店は赤字でした。がんばって評判の店に立て直したのですが、経営はちっとも楽になりませんでした。当時は、菓子パンや総菜パンなど40種類ほどを作っていて、材料代もかかるし、人手も必要だったのです。パンの売れ残りも多く、毎日、いっぱいすてていました。うちへ遊びに来ていたモンゴル人の友人がそれを見て、「食べ物をすてるのはおかしいよ」と言った時、時間にも心にも余裕よゆうがなかったぼくは「仕方ないんだよ!」と言い返してしまいました。

そんな自分がいやになり、店をお休みしてヨーロッパのパン屋を見にいくことにしました。実際にフランスとオーストリアの店で働いてみたのですが、おどろきました。働く時間が、ぼくは1日15時間以上だったのに対してずっと短く、特にオーストリアの店ではたった4~5時間でした。それなのに、できるパンはぼくが作っていたものよりずっとおいしいのです。しかもパンが1個もすてられていませんでした。

帰国してから、オーストリアで見たやり方を真似し、売り方も変えました。働く時間がへって体が楽になり、でも売り上げは前と同じぐらいあり、気づいたらパンをすてなくなっていました。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
パンをすてる時はとても苦しかったです。これはきっと経験したことのある人にしかわからない感覚で、重りを飲みこんだような感じ。ぐーーーっと重い、罪悪感です。きっと人間は、食べ物をすてるのに罪悪感を持つようにできているのだと思います。

感動したのはやっぱり、ぼくのやり方が多くの人に受け入れてもらえたことです。

ある日、家の中でスケッチブックを見つけました。そこにかれていたのは今作っているようなシンプルなパンだけがならぶ光景。パン屋をついで間もないころ、「こんな店ができたらいいな」というイメージを絵にしていたのです。ああ、それが実現したんだと思った時はうれしかったですね。
Q4.
どんな子どもだったクエッ?
虫が好きで、夏はずっとセミをとっていました。特にオケラが好きで、昆虫図鑑こんちゅうずかんを見ていて興奮こうふんし過ぎ、鼻血を出したこともあります。

外で遊ぶことが多く、走ったりするのは得意でした。勉強は、小学生の時はできた気がします。が、何のために勉強するのかを考え出したころから数字が苦手になりました。

家がパン屋でしたが、パンはおやつにたまに食べるぐらいでした。お菓子でよく買っていたのは、ガンダムのプラモデルがおまけについてくるチョコスナック。チョコボールもよく食べて、おもちゃのカンヅメにあこがれていました。
Q5.
未来の大人たちへ
ぼくたち人間に元々そなわる感覚をとぎすますためにも、外でいっぱい遊んでください。食べ物をすてることへの罪悪感もその感覚のひとつだと考えます。

自然は、生きる上で大切なことをたくさん教えてくれます。例えば、何かで迷い、どっちの道に進むべきか、という時。ぼくは仕事でなやんだ時、いったんお休みしてヨーロッパへ行き、今のやり方を選びました。みなさんも、進む道を選ばなければいけないことが今後たくさんあるでしょう。そうした時に働くかんのようなものは、山や川で遊ぶ中でつちかわれていくのだと思います。
プロフィール
1976年広島県生まれ。大学で環境かんきょう問題を学んだ後、北海道や沖縄で自然ガイドなどを経験。2年間のモンゴル滞在たいざいをへて、2004年にパン屋の3代目をついだ。2012年に1年半休業してヨーロッパへ。オーストリアで学んだ方法を実践じっせんし、“すてないパン屋”として活動している。
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