サステナブルなお仕事No.20

き職人

五十嵐匡美いがらし まさみさん


き職人

五十嵐匡美いがらし まさみさん

すてられる野菜や果物から
カラフルな和紙を作る
福井県の伝統工芸である越前和紙えちぜんわし
その技を受けつぐ五十嵐さんは、皮や切れはし、キズがついたりわれたりしたものなど、ゴミになる野菜や果物を使った「フードペーパー」という新しい和紙を作っているよ。
アイデアの元は子どもの自由研究なんだって!
Q1.
どんなお仕事クエッ?
1500年という、とても長い歴史を持つ越前和紙の職人です。昔はふすまの紙を作ることが多かったのですが、最近は時計や照明などにも和紙を取り入れて、その可能性を広げています。2020年からは野菜や果物を使ったフードペーパーを作っています。

フードペーパーのヒントは、次男が小4から中2まで夏休みに取り組んでいた、食べ物から紙を作る自由研究でした。ある日、テレビでバナナを使った紙があることを知ったかれは、色々な野菜や果物で『紙作り』に挑戦ちょうせん。年々、研究を重ねて進化させていきました。現在、商品になっているフードペーパーでは強度を高める工夫をしていますが、それ以外は同じです。

フードペーパーに使われる野菜や果物は、カットするときに出てくる皮などのゴミだけではありません。ちょっとキズがあるだけで商品にはならず、すてられてしまう野菜や果物も近所の農家さんたちから分けてもらっています。いつも、食べられるのにもったいないなと思います。フードペーパーを通して、食べ物や買い物の仕方のことを少しでも考えてほしい。さらに、ゴミを燃やす時には二酸化炭素が発生するので、ゴミを減らすことでその排出はいしゅつ量を減らし、地球温暖化おんだんかストップに貢献こうけんしたいと思っています。

また、和紙の本来の原料はコウゾなどの植物です。それが生産者の高齢化こうれいかもあって収穫しゅうかく量がものすごく減っています。野菜や果物を使うことで原料の不足をおぎなうこともでき、和紙作りの伝統を次の世代へつなげていくことも可能になると考えています。
タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ミカン、ブドウなどを原料に作られるフードペーパー。ノートやカード、小物入れなどにして販売(はんばい)。オリジナルの紙を作る注文も受けている。写真提供:五十嵐製紙(以下同)
タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ミカン、ブドウなどを原料に作られるフードペーパー。ノートやカード、小物入れなどにして販売はんばい。オリジナルの紙を作る注文も受けている。
写真提供:五十嵐製紙(以下同)
タマネギやミカンはシャキシャキ、ジャガイモやニンジンはやわらかくほっこり。使うものによって紙の手ざわりやしなやかさ、風合いが変わる。
タマネギやミカンはシャキシャキ、ジャガイモやニンジンはやわらかくほっこり。使うものによって紙の手ざわりやしなやかさ、風合いが変わる。
次男は自由研究で紙作りに挑戦。ここからフードペーパーは生まれた。地元では小学校でも紙漉(す)きの授業があり、和紙作りが日常にとけこんでいる。
次男は自由研究で紙作りに挑戦。ここからフードペーパーは生まれた。地元では小学校でも紙きの授業があり、和紙作りが日常にとけこんでいる。
Q2.
なぜ、そのお仕事を選んだクエッ?
両親も、祖父母も和紙をつくる職人です。小さい時から工房こうぼうは遊び場で、働いている人に教えてもらいながら紙をいていたものです※。わたしは一人っ子なので、両親の後をつぐことは何となく考えていましたが、実はいったん別の仕事もしました。その後、この仕事についたのは、やっぱり「作ること」が好きだったからです。

和紙は1まい1まいちがい、同じものはありません。漉くときに、今回はこうしてみようと考えるのが大変でもあり楽しさです。紙漉きは心おだやかでないとできず、そこも魅力みりょくです。

※加工した原料をかした水を、スノコですくってこし、紙にすること
水に溶けた原料を丁寧(ていねい)に漉く五十嵐さん。ミカンを原料にすると漉いている時、いいにおいに包まれる。乾燥(かんそう)させるとにおいはなくなる。
水に溶けた原料を丁寧ていねいに漉く五十嵐さん。ミカンを原料にすると漉いている時、いいにおいに包まれる。乾燥かんそうさせるとにおいはなくなる。
Q3.
仕事で苦労したこと、感動したことは何クエッ?
山や川から来る水のめぐみを受け、天候に大きく左右される。紙漉きはまさに自然と共にある仕事です。たくさん水が必要なので、雨が少なすぎると紙が漉けませんが、雨が続くとかわかすのに時間がかかってしまいます。かつて2度、豪雨ごううによる洪水こうずいで工場がどろまみれになり、あの時は大変でした。

感動するのは、作った和紙を使ってもらえているのを見る時です。海外のアーティストから注文を受けることもあり、アメリカで行われた写真家の展覧会てんらんかいで使われた時は、現地まで見に行きました。わたしが漉いた紙に写真がプリントされてならんでおり、感動しました。

ある絵本の展覧会では、電車の駅に大きな広告が出されたのですが、そこでフードペーパーが使われました。絵本のなかの絵にはニンジンやキャベツなどが登場するので、それと同じ野菜を使ったフードペーパーにいくつもの場面を印刷し、表現するというものでした。
Q4.
どんな子どもだったクエッ?
近所の山をかけ回ったり、お宮さんの境内でかんけりをしたり、元気に遊んでいました。でもこの辺りは雨が多く、雨の日は家の中でゲームをしたり、ジグソーパズルをしたり。手芸やお菓子作りもよくしました。そういう細かいことが好きでしたね。

おやつは、駄菓子だがしなどのあまいものが大好きでした。チョコボールはおいしいし、おもちゃのカンヅメもほしくてよく食べました。
Q5.
未来の大人たちへ
息子が食べ物から紙を作る研究を始めた時、「できるわけない。でも、失敗もいい経験になるだろう」と思っていたのですが、できてビックリし、子どものやわらかい頭、発想はすごいと思いました。

今は便利になった半面、のびのびと遊べる場所が少なくなっていますよね。この辺りでもサルやクマが人里近くまで来るようになり、近所の山でも自由に遊べなくなっています。でも、そんな中でもやわらかい頭で関心のあることや夢を見つけ、楽しみながら大人になってほしいと思います。
プロフィール
大正時代、1919年創業そうぎょうの越前和紙の工房「五十嵐製紙」の四代目。2015年に伝統工芸士に認定にんていされた。伝統技術を守りながら和紙による新たな取り組みを進めており、2020 年、地元のデザイン会社と協力して「フードペーパー」のブランドを立ち上げた。
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