世界の舞台で活躍する選手たちは、あれだけの感動を生み出すプレーを発揮する裏で、本当に多くの厳しい練習やトレーニングを乗り越えてきています。
練習やトレーニングと共に選手が乗り越えるものの一つに「減量」があります。
メダル獲得が期待されている柔道やレスリング等は階級制のスポーツです。
試合に臨むにあたり、自分の出場する階級に合わせて、体重を減量していかなくてはいけません。
減量を達成するためには、「消費エネルギー>摂取エネルギー」が大原則ですから、摂取エネルギーを減らすか、消費エネルギーを増やすかのどちらかになります。
ここに一つ落とし穴があります。
減量をしようとして、短期的に極端に摂取エネルギーを減らす選手が見られますが、それにより日常的に利用できるエネルギーが不足してしまう状態になってしまいます。
図 スポーツにおける日常的に利用できるエネルギーの不足によるパフォーマンスへの影響
図は、国際オリンピック委員会がコンセンサスとして出している、エネルギー不足によってパフォーマンスに与える影響についてまとめたものです。
エネルギーが日常的に不足してしまい、筋力や筋持久力が低下したり、判断力や集中力等にも悪影響が及ぼされてしまいます。
他にも極度に減量を実施した場合に起こり得る影響として、パフォーマンスだけではなく、健康面でも上記表のような影響も報告されています。
では、このような影響を予防し、減量を成功させるためにはどうしたら良いのでしょうか?
この表も国際オリンピック委員会が出している推奨事項ですが、一言で「減量」といっても、パフォーマンスを向上するための適切な減量を行うには、長期的な計画やストレングストレーニングの必要性をはじめ、食事内容の個別評価等多くの取り組みを行わなければいけません。
特に食事内容については、余分な脂質を減らしながらもエネルギーが不足しないよう、炭水化物やタンパク質を補給できるように計画する必要があります。
エネルギー摂取量は基礎代謝量を下回らないことが一つの目安になります。また減量度合いについては、1週間あたり~0.7%程度にすることが、除脂肪体重(体重から脂肪量を除いた重量)の維持・増加につながるという研究結果が報告されています。
女性に限らず、男性も急激な体重減少を行わないようにしましょう。
それでは、減量計画の実践ポイントを紹介します。
まずは、現在の体重から、一週間後ごとに体重が何kgになっていることが望ましいか算出し、1か月後の目標体重を設定しましょう。
例)体重60kgの人が、一週間に0.7%ずつの減量を1か月行う場合
体脂肪1kgを減少させるのに必要なエネルギー量は7200kcalのため、0.42kgの減量で1週間に約3000kcalの食事によるコントロールが必要となります。
運動を日常的に行っていない人の場合は食事と運動による減量計画が必要です。しかしアスリートや日々のトレーニングを行っている人はそれ以上のトレーニングは体の負担になることもあるため、今回は食事のみでのコントロールを考えてみます。
1日当たり、約435kcalを減らすことになります。
これを一食または一品で減らそうとすると、食事に物足りなさを感じて継続が難しくなります。
少しの工夫で少しずつエネルギーを減らしていきましょう。
食事は、食材×調理法×調味料の組み合わせでエネルギー量が大きく変わります。上手な組み合わせで、食事のメニューの幅が広がります。
カロリーを高い・普通・低いに3分類し、どのような食材、調理法、調味料が属するかを表で示しました。
表 食材・調理法・調味料別のエネルギー区分
例えば、鯖の味噌煮の場合、食材の鯖、調味料の味噌が “エネルギー高”、調理法の煮るは“エネルギー普通”に属しますので、この料理は比較的エネルギーが高いものだといえます。
鱈のホイル焼きはどうでしょうか。全て“エネルギー低”に属します。
エネルギーの高い食材を使用する場合は、調理法と調味料に気をつかって、料理全体のカロリーダウンに挑戦してみましょう。
揚げ物が食べたい時は、エネルギーが低い食材を使い、塩やからしを使って料理を楽しんでみるのもいいですね。
空腹時間が長いのは我慢の連続です。
減量を始める前に、空腹を感じたらやることリストを考えておきましょう。
例)歯を磨く、集中できる趣味を行う、とにかく3分だけ我慢してみる など。
食べたい衝動を抑えられるかもしれません。
また、満腹感が得られる食事の工夫も必要です。
噛む回数が多くなる食材を使ったり、先ほどのエネルギーが低い食材を“ボリュームアップ食材”として料理に加えるなどしてみましょう。
空腹時間の軽減につながります。
減量中はおやつ、お菓子を絶対に食べない!と決めてしまう人がいます。
守れる人は問題ありませんが、守れなかった場合、一度食べてしまったことで罪悪感にさいなまれたり、やる気を失う原因につながったりします。
そこで、「絶対食べない」ではなく、おやつを食べる時間、量、質(内容)を考えてうまく取り入れましょう。
食べる時間:早めに食べましょう。15時のおやつは時間的にもその後の活動によるエネルギー消費ができるのでGood!
量:カロリーは100kcal程度に抑えましょう
質:甘いものばかりではなく、ビタミン・ミネラルなどが摂れる果物、ヨーグルトがおすすめです。人工甘味料やシュガーレス商品などを見つけるのもいいですね。
食事量そのものを減らしてしまうことによって、ビタミンやミネラルも不足してしまい、別の健康障害につながってしまう恐れもありますので、必ず食事の内容や摂っている栄養補助食品も見直す必要があります。
森永のウエイトダウンプロテインのように、減量を行う方の栄養不足やタンパク質不足を防ぐためにつくられたサプリメントもありますので、もし競技力の向上のために減量を検討している方は、トレーナーやスポーツ栄養士に相談をした上で、自分の食事計画や生活を見直してみると良いのではないでしょうか。
参考
スポーツを楽しむための栄養・食事計画 川野因著 光生館 2016