人間は食品の栄養素を、生命維持や活動エネルギーなどに活用しています。食品に含まれている炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルのうち、体をつくる材料となるのは「タンパク質」です。しかし、食品に含まれているタンパク質が、体の中でそのまま使われるわけではありません。本記事では、タンパク質の働きや、アミノ酸とペプチドとの違いについて解説します。
タンパク質は肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などに多く含まれている栄養素です。「体をつくる材料となる」タンパク質ですが、ヒトの体を構成する成分のうち、どのくらいの割合を占めているのでしょうか。体重60kgの成人の体組成の例で確認してみましょう。
【成人の体組成(体重60kgの場合)】
体の半分以上を占める水分を除くと、タンパク質と脂質の割合が多い事が分かります。食事から摂取する栄養素の中では、糖質と食物繊維を合わせた炭水化物の割合が多いですが、体組成では糖質は1%未満とわずか。これは、糖質がエネルギー源として使われ、過剰な分は脂肪として蓄えられるためです。
タンパク質は、体の中のあらゆる場所に存在しています。筋肉、臓器、皮膚、骨、毛髪などの主要成分として存在するほか、体の機能を調整するホルモン、酵素、抗体などの材料でもあります。
タンパク質は体の中のさまざまな機能を請け負っており、ヒトの体に欠かせない栄養素の一つです。
参照日:2020年3月30日
タンパク質は、炭水化物や脂質とともに「エネルギー産生栄養素」の一つです。タンパク質1gあたり4kcalのエネルギーとなります。「エネルギー産生栄養素」のうち、炭水化物が優先的にエネルギー源として使われますが、炭水化物が不足するなどでエネルギー源が不足すると、体内のタンパク質や脂肪をエネルギー源にします。
食事から摂取する「エネルギー産生栄養素」は、バランスが大切だといわれています。例えば、30歳の男女においては、摂取エネルギーの比率を炭水化物50~65%、脂質20~30%、タンパク質13~20%とすると、3つの栄養素の摂取不足を防ぐことができると考えられているのです。
しかし、必要な栄養素には個人差があります。「エネルギー産生栄養素」のバランスは、おおよその値です。自分に必要なエネルギー量を確保した上で、そのほかの栄養素も考慮しながら、「エネルギー産生栄養素」の摂取エネルギー比率を整えていくとよいといわれています。
【参考】日本人の食事摂取基準(2020年版)エネルギー産生栄養素バランス
参照日:2020年3月30日
タンパク質は、アミノ酸が多数つながって構成されている高分子化合物です。自然界に数百種類あるアミノ酸のうち、タンパク質を構成するアミノ酸は20種類。実は、ヒトだけでなく、細菌やウイルスを含めたさまざまな生き物のタンパク質は、20種類のアミノ酸で構成されているのです。反対に、20種類のアミノ酸が1つでも欠けるとタンパク質を合成できません。
20種類のアミノ酸のうち11種類は、ヒトの体内で糖質や脂質から合成できます。体内で合成できることから「非必須アミノ酸」と呼ばれています。残りの9種類は「必須アミノ酸」と呼ばれ、ヒトの体では合成できないため、食品から摂取する必要があるアミノ酸です。
必須アミノ酸が体で合成できないと知ると、十分に摂取できているのか心配になるかもしれません。特定の食品を食べ続ける、または食べないなどの、偏った食生活でなければ、不足することはほとんどないといわれています。
ヒトの体内に存在するタンパク質は、約10万種類におよぶといわれています。アミノ酸が立体的につながったり、糖質・色素・金属などの物質と結合していたりすることで、タンパク質は固有の構造を持っています。
【参考】
参照日:2020年3月30日
ちなみに、2~20個程度のアミノ酸が結合したものを総じて「ペプチド」と言い、これは4つ結合していれば「テトラペプチド」、20個なら「オリゴペプチド」と名前が変わります。
つまり同じアミノ酸を素に構成するタンパク質ですが、その個数が50以上のアミノ酸の集合体を「タンパク質」、50以下を「ペプチド」と呼称するのです。
また、この違いは、大きさだけでなく分解された時の吸収速度も関係しています。
本来、アミノ酸は消化、分解の必要のないくらい細かい分子であり、その分吸収速度が速いのです。ペプチドも(ものによりますが、)アミノ酸が数個結合しただけの、アミノ酸に近い大きさの分子ですので、タンパク質に比べるとずっと吸収が早いのです。
そのため、運動後のエネルギー補給に適していると、補給食品にその名前を見かける方も多いかと思われます。しかし、ペプチドの難点はアミノ酸同様、その分子の細かさから普段の食生活では賄いきれない点が挙げられます。プロテインの種類でいうと大豆プロテインや卵白などのごく一部の食品からしか摂取できず、必要量の摂取が非常に難しいのです。
その点、分子が大きくなるタンパク質はプロテインや普段の食生活で摂取する機会が多いため、必要量の確保が容易であり、そのほかの栄養素も同時に摂取可能なことから摂取が薦められているのです。
例えば森永の「inバープロテインウェファーナッツ」は1本で10gのタンパク質を摂取できる、ウエハースタイプです。ヘーゼルナッツペースト入りで、ナッツの風味が香ります。軽い食感ではありますが満足感は十分あり、お腹がすいたときの空腹を満たすためにも活用できるプロテインバーです。
では、そのタンパク質はどのように吸収されているのでしょうか。
タンパク質を食品から摂取した場合、
①胃で胃酸とペプシンにより大まかに分解される
②小腸で分泌される膵液の酵素で「ペプチド」にまで分解される
※この時点で吸収されるタンパク質(ペプチド)もあり、「ジトペプチド(2つのアミノ酸結合体)」、
「トリペプチド(3つのアミノ酸結合体)」という。
③小腸の粘膜上皮にある「ペプチラーゼ」によって、アミノ酸にまで分解され、小腸の粘膜に吸収される(「膜吸収」)
こうして吸収されたタンパク質、基アミノ酸が私たちのカラダを作り、時にエネルギーとなるのです。
参考サイト:タンパク質とペプチドとアミノ酸の違い
では、こうして吸収されるアミノ酸とは、具体的にどういったものなのでしょうか。
口から入った食品は、食道から胃へ運ばれ、十二指腸から小腸、大腸を通り、不要なものは便として排泄されます。消化器官を食品が通っていく過程で、それぞれの器官から分泌される消化液の影響を受け、吸収されやすい形となって体内に吸収されます。
タンパク質は、アミノ酸がつながった非常に大きな分子です。タンパク質の状態では体内に吸収できないため、さまざまな消化酵素によってつながりを短くしていきます。そして、アミノ酸が数個つながったオリゴペプチドや、最小成分の遊離アミノ酸までに分解されるのです。
オリゴペプチドと遊離アミノ酸はどちらも小腸で吸収されますが、オリゴペプチドは小腸の細胞内にある酵素によってさらに分解されます。なお、遊離アミノ酸とは、ほかのアミノ酸と結合していない、単独で存在しているアミノ酸のことです。
吸収された遊離アミノ酸は、肝臓へ運ばれます。肝臓で遊離アミノ酸は、タンパク質に合成されるほか、非必須アミノ酸に変化します。また、血液によって各組織へ運ばれ、筋肉、内臓、骨などの材料になったり、ホルモンや抗体などの構成成分になったりして、体の中でさまざまな機能を果たしているのです。
このように、食品から摂取したタンパク質は、消化酵素によって分解されてから、体内に吸収されます。
参照日:2020年3月30日
体の中では、タンパク質が合成されているだけではありません。体の中で不必要となったタンパク質は、分解されてアミノ酸になります。また、古くなった皮膚がアカとなってはがれ落ちるように、タンパク質が失われることもあります。タンパク質は合成と分解を繰り返して、体内で一定量に保たれているのです。
なお、分解されたタンパク質は、アミノ酸として再利用されるほかにも、不要になれば肝臓で尿素に変わり、腎臓に送られて尿として排泄されます。
【参考】食品栄養学(タンパク質)
参照日:2020年3月30日
アミノ酸とは、タンパク質を構成する最小成分だと前述しました。では、ペプチドとの違いはどこなのでしょうか。
ペプチドとは、アミノ酸が数個つながったものです。アミノ酸が2個結合したものを「ジペプチド」、3個結合したものを「トリペプチド」、10個ほど結合したものを「オリゴペプチド」、それ以上を「ポリペプチド」と呼ぶこともあります。
ペプチドとアミノ酸は、タンパク質の材料になるだけではありません。
アスパラギン酸とフェニルアラニンが結合したジペプチドは、人工甘味料の「アスパルテーム」として知られています。そのほかにも、体内でホルモンや神経伝達として働くペプチドもあります。
また、アミノ酸では、うま味成分のグルタミン酸が良く知られています。例えば、味噌などの発酵食品は、発酵によってタンパク質が分解されます。アミノ酸が増えることで、味に深みが増すのです。
【参考】
参照日:2020年3月30日
アミノ酸スコアとは、食品に含まれている「必須アミノ酸のバランス」を評価する指標です。アミノ酸スコアの満点は100。卵、牛肉、鶏肉、鮭、牛乳などがアミノ酸スコア100の食品です。アミノ酸スコアが100に近いほど、体の中で有効活用されます。
アミノ酸スコアは、よく木桶に例えられます。板が組み合わさった木桶は、一部の板が短いと、短い板の上部までしか水を溜めることができませんよね。溜める水を「合成するタンパク質」、木桶の9枚の板を「必須アミノ酸」と考えると、1つの必須アミノ酸が足りなければ十分にタンパク質を合成できないのです。
しかし、不足している必須アミノ酸があるとしても、ほかの食品からアミノ酸を補うことで、バランスを整えることができます。例えば、ロールパンのアミノ酸スコアは56。必須アミノ酸のうちリジンが不足していますが、ほかの食材からリジンを補うことで有効活用できますよ。
毎日の食事は、いろいろな食材をそろえたいものですが、食事のバランスが整わないときには、プロテインやゼリー飲料などの栄養補助食品で補うのもおすすめです。
【参考】
参照日:2020年3月30日
「タンパク質」は、ヒトの体内のあらゆる場所に存在しています。その構造は複雑ですが、基本はアミノ酸が多数つながった物質です。タンパク質が分解されると、ペプチドやアミノ酸になって小腸で吸収されます。ペプチドやアミノ酸は独自の機能も持っており、体の中で働いたり、食品の味の決め手になったりしています。