怪我から練習復帰までの栄養サポート
アスリートは日々、高強度のトレーニングを行うことから、怪我をすることもあるかもしれません。怪我をしてしまった場合は、その怪我の回復に全力を注ぐことが重要であると考えます。怪我からの早期復帰ではリハビリや睡眠などさまざまな要素が重要となりますが、配慮することの1つに食事が挙げられます。私はサポートしている選手が怪我をした場合、できる限り最新のエビデンスを参考にしながら、選手の過去・現在の食生活や既往歴なども踏まえて早期復帰に向けた食事の提案を行うよう心掛けています。
本コラムではこれまでサポート活動を通して関わってきた選手のうち、内側側副靭帯を損傷した女子選手に提案した栄養面からのアプローチをご紹介します。
怪我発生時の状況とその後の取り組み
選手は、練習中に内側側副靭帯のⅡ度損傷を起こしました。内側側副靭帯の損傷は重症度に合わせてⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度損傷に分類されます1)。治療は保存療法で行われ、5日ほど安静にした後にサポーターを装着してリハビリが開始されました。
リハビリ期間に体重が増えすぎると復帰時に再度受傷するリスクが考えられるため、エネルギー摂取量のコントロールをする必要があります。受傷後の食生活で特に着目したのはエネルギー摂取量とタンパク質摂取量です。
怪我をする数日前の4日間の食事調査の平均値はエネルギーが2,976kcal、タンパク質が126g(約1.8g/体重kg)、脂質が88g、炭水化物が420gでした。上記は体重の増減がないエネルギー摂取量であったことや、エネルギー消費量を加味すると、選手の怪我の前のエネルギー必要量は3,000kcal前後と考えられました。怪我でリハビリ生活となると、練習・トレーニング量の減少によるエネルギー消費量の減少が予測されます。
一方、障害の種類や重症度に応じて15~50%増加するとも言われており2)、リハビリなども踏まえるとそこまで大きくエネルギー消費量は減少しないと考えられます。エネルギー消費量の推定は非常に難しいため、怪我をした後の選手に必要なエネルギー摂取量の推定は定期的な体重の測定と食事の確認をもとに行い、体重が維持できるエネルギー摂取量としました(約2,700~2,800kcal)。
選手の普段のタンパク質摂取量は約1.8g/kgでしたが、先行研究では2~2.5g/体重kgが推奨されていました2)。したがって、選手のタンパク質目標量については2~2.5g/体重kgを目指すこととしました。
選手は寮で生活しており、朝、夕ともに食事が管理されています。エネルギー摂取量のコントロールの際には、日々食べていたどら焼きやクッキーなどの補食をなくし、朝、昼、夕のご飯の量を減らすこととしました。また、選手は調理に抵抗があったため、選手自身で準備する昼食は、高タンパク質で低脂質な料理の選び方を提案しました。提案の際には具体的な料理名やその料理に含まれるタンパク質量を掲示しながら無理なく取り入れられる料理が何かを選手と話しました。
しかし、近隣の飲食店は高タンパク質で低脂質な料理のレパートリーが少なかったことから、食事のみでエネルギーを抑えつつ、タンパク質量を増やすことは難しい状況でした。そこで、エネルギーを抑えつつ手軽にタンパク質を増やすために、タンパク質20g含有のプロテインの摂取を提案しました。
その他、コラーゲン摂取にも着目しました。靭帯の成分はコラーゲンであることや、医師からもコラーゲン摂取が推奨されていること、先行研究においても靭帯損傷時にコラーゲンを摂取することがよいとされています3)。しかし、コラーゲンを多く含む食品(牛すじ、鶏軟骨、手羽先・鶏の皮など)は、選手が日常的に食べない食品ばかりで難色を示していたことから、コラーゲンペプチドを含む栄養補助食品も提案しました。コラーゲンペプチドとは、図のようにコラーゲンを加熱してほぐしてゼラチンにし、さらに酵素などで細かく分解されたもので、低分子であるため消化吸収されやすいという特徴があります4)。
先行研究3)では、靭帯損傷などの際に摂取が推奨されるコラーゲンペプチドの量としては10~15gであることが報告されていました。そこで、手軽に食生活に追加できるものとして、コラーゲンペプチド10g含有のドリンクを1日に1本ずつ継続的に飲むことも提案しました。また、コラーゲンはビタミンCによって合成される5)ため、食事やサプリメントからビタミンCを十分に摂取することを提案しました。
怪我発生後の経過
怪我が発生して12日後には選手より痛みが軽減しているとの報告があり、医師の診断で5週間後には練習を開始することができました。予定通りのペースで練習に復帰できたことから治療、リハビリ、栄養補給等、取り組みは適切に行われた可能性があると考えられます。
まとめ
アスリートは長い競技人生の中で怪我をすることもあるかもしれませんが、その際に食生活にも留意することで、予定通りの復帰につながる可能性があると考えます。私たちのカラダは食べ物でできています。怪我をした際には選択肢の1つとして食生活も振り返っていただけたらと思います。
参考文献
1) 福林徹: アスレティックリハビリテーションガイド 競技復帰・再発予防のための実践的アプローチ, p.131 (2008), 文光堂, 東京都
5) コラーゲン
参照日:2023年10月12日
(文責)佐藤愛