2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)1)は、昆虫食の今後の展望についての見解を発信しています。世界的な人口増加と、動物性タンパク質の飼育コストの上昇や環境への負荷が高いことなどから、その代替え食品として、昆虫は環境と健康、生活において貢献するものであると述べられています。
日本においては、いなごの佃煮や蜂の子などが知られているかと思いますが、世界では20億人が日常的に昆虫食を食べていると推定されており、さらに1900種以上の昆虫が食用として記録されているなど、幅広く食べられていることがわかります1)。
持続可能な食事を考える上では、日本でも昆虫食を取り入れていくことが日常的になってくることも考えられます。しかし、アスリートや運動習慣のある方において、スポーツ栄養の観点から考えると、昆虫のタンパク質がどれほど貢献するのかは疑問が残りました。
そこで、2021年に昆虫食と筋タンパク質合成について報告されているHermans WJHらの論文を紹介し、まだ日本では馴染みの薄い昆虫食について、考えるきっかけになればと思います。
昆虫は、より持続可能なタンパク質密度の高い食料として、これまでの動物性のタンパク質の代替え食品となる可能性があります。昆虫のタンパク質は、そのアミノ酸組成が動物性のタンパク質源と同様に筋タンパク質合成を刺激する可能性があることが示唆されています。今回は、牛乳や肉などと似たアミノ酸組成をもつ、ミールワーム(ゴミムシダマシ科の幼虫)を試料としました。
対象は、健康な男性24名です。方法は、二重盲検試験で行われ、運動負荷は、片足でのサイクリングと、レッグプレス、レッグエクステンションを行いました。
運動前後に筋バイオプシー※1と血液を採取し、運動直後にミールワーム由来のタンパク質30g(WORM:エネルギー312kcal/P:F:C=46:46:6)、もしくは牛乳由来のタンパク質30g(MILK:エネルギー142kcal/P:F:C=91:5:6)を摂取しました。
結果は、WORMとMILKの両群で、安静時、運動時ともに筋タンパク質合成速度が増加したことから、タンパク質源による違いはありませんでした(図1)。
結論として、ミールワームの摂取は、安静時と運動後の両方で、筋タンパク質合成速度の増加が起こります。そのため、ミールワーム由来のタンパク質は、人が牛乳由来のタンパク質を摂取した場合と違いがありません。よって、昆虫は人にとって有効な高タンパク質源として利用できることを示しています。
※1筋バイオプシー・・・筋組織から小切片を採取し、その組織片のデータをとること
(文献)
昆虫に含まれる栄養素は、昆虫の種類によっても異なりますが、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維が多く、さらに脂質は不飽和脂肪酸のn-3系やn-6系の脂肪酸が豊富であることが明らかとなっています1)。
そのことからも、栄養密度の高い食品として利用できる可能性があると考えられます。
実際に日本において昆虫食を食べる機会はまだ少ないと思いますが、昆虫食(ミールワーム)は、牛乳由来のタンパク質との比較においても劣ることなく利用できるということがわかりました。すべての食事を昆虫食にするというわけではなく、より多くのタンパク質摂取量が必要なアスリートや運動習慣のある方が、プラスαで摂ることのできるタンパク質源として、活用の可能性があるのではないかと思います。
今回紹介した論文でも、粉末状にしたうえで、水に溶かしてドリンクとした試料であったため、粉末のプロテインと似た使用方法でした。また、市販されている食品では、コオロギを使用したチョコレートやせんべい、フィナンシェなどが販売されており、粉末にして使用しているため、食べやすい食材になりつつあるのではないでしょうか。
昆虫食の活用は食事と健康、そして環境への配慮を考える上で重要な要素の一つだと思います。
今後も、日々更新される情報を収集し、幅広い視点で食を考えていきたいと思います。
(文責)
三好友香