自転車競技選手における試合時の栄養補給計画
本コラムは、森永製菓inトレーニングラボにおける栄養サポートの一部をご紹介いたします。
アスリートが試合でベストパフォーマンスを発揮するには、日頃の食事や練習、トレーニングだけでなく、試合当日の過ごし方も重要です。食事に関しては、試合開始までに必要な栄養を補給するだけでなく、試合中に補食が必要な場合もあります。
そのため、事前に試合のスケジュールを把握して、栄養補給計画を立てておくことが重要です。今回は、自転車競技のA選手の試合時の栄養補給計画についてご紹介します。
自転車競技について
自転車競技はロードバイク、マウンテンバイク、BMXなど様々な種目があり、A選手は複数の種目に出場しています。
今回 A選手が出場した大会は、シクロクロスという種目で、激しい坂や林間、砂場など変化に富んだコースを約1時間走り、スピードを競う競技です1)。
栄養学的観点から考えると、競技時間が長く強度も高いため、レースまでにエネルギー源となる糖質を十分に補給することや、レース中にも糖質を補給することが必要です。
競技中の栄養補給の環境は、バイクのフレーム部分にドリンクホルダーが装着されていたり、ウェアの背中部分にポケットが装備されていたりと、レース中も水分や補食を摂ることができます。
栄養サポート前の選手の状況
栄養サポート前の試合当日の食事は、レース2-3時間前に外食で丼ぶり等を食べるか、もしくはコンビニで購入したおにぎりやサラダチキンを食べていました。その後は、レース直前にプロテインゼリーを飲んで試合に挑み、レース中はレースに集中していて補食や水分はほとんど摂っていませんでした。また、レース後は、食事の時間まで何も食べていませんでした。
栄養補給計画立案
前述のとおり、シクロクロスは糖質補給が重要となる競技であるため、レース2-3時間前に食事をした後も、レースまで糖質を十分に補給し、さらにレース中も消費された糖質を補給する必要があります。また、レース後から食事まで時間が空く場合は、レース直後に糖質やタンパク質を補給する必要があると考えました。
今回の試合の食環境は、試合会場までの道中にコンビニや飲食店があり、食事には困らない状況でした。また、朝食はコンビニで購入する予定だと事前に伺っていました。
上記を踏まえ、試合当日の栄養補給計画は図1、図2の通りに伝えました。
試合前の糖質補給は、糖質摂取のガイドライン2)に則って、レース2-4時間前までに1-4g/kg体重と設定しました。レースまでの糖質補給はA選手の普段の朝食での糖質補給量を加味し、2.8g/kg体重と設定しました。
朝食は、おにぎり2つ、汁物、サラダチキンもしくはゆで卵としました。これらのポイントとして、糖質、タンパク質、
レース中は、糖質摂取のガイドライン(30-60g/時間)2)に則って45gとしました。45gの糖質はエネルギーゼリー1つで摂ることができるため、レース中に必要な糖質量を素早く摂ることができると判断し、選手にもレース中に補給可能か確認したうえで設定しました。
また、レース中は集中していることから水分をこまめに補給することが難しいため、朝食に味噌汁を付けたり、会場入りからレースまでの時間にこまめに水分補給したりと、レースまでに十分な量を摂取する計画にしました。
レース後は、リカバリーのために主食、主菜、副菜、果物、乳製品が揃った食事をなるべく早めに食べることが理想的ですが、後片付けや表彰式等で食事の時間が確保できないことが多いと考えられます。そのため、レース直後はレース中に補給できなかった水分とレースで消費した糖質を最低限補給するため、スポーツドリンクをこまめに飲むよう伝えました。また、プロテインもしくはプロテインバーでタンパク質も補給する計画としました。
レース後の食事は主食、主菜、副菜、果物、乳製品がすぐに食べられる場合とそうでない場合に分けて計画を立て、可能な方を実施するように伝えました。試合後すぐに食べられる場合は、昼食、夕食共に主食、主菜、副菜、果物、乳製品を食べ、そうでない場合は、昼食で最低限の糖質を補給できる軽食を摂り、その後の夕食で主食、主菜、副菜、果物、乳製品が揃った食事をする計画としました。また、その場合は昼食で摂れなかった主菜や副菜を夕食で多めに食べるよう伝えました。
結果と今後に向けて
試合当日の実際の食事は、「朝食をコンビニから外食に変更したが、レース前の補食や水分補給、レース中のゼリーは計画通り摂ることができ、レース中のスポーツドリンクは200ml程度摂れた。レース直後のプロテインは摂れたが、昼食は疲れていて餃子のみになってしまった。夕食はラーメン、角煮丼、ゆで卵を食べた。」とのことでした。
朝食は、牛丼チェーン店を利用することになりましたが、ごはん、牛皿、味噌汁、小鉢分のサラダ、納豆を食べており、朝食のポイントを踏まえた食事選択ができていました。
レース中も、栄養補給計画通りに摂れており、選手からは、「レース中、いつもよりペダルを踏み込める感じがした」という所感が得られました。その要因の1つとして、栄養面においては、いつもより糖質を補給できたことが影響したのではないかと考えます。
一方でレース後は、補食を食べ、早めに昼食を食べに行けたものの、疲れていて餃子しか食べられず、レースで消費した糖質を十分に補給できていない結果となりました。今後はレース後に糖質を摂る重要性や疲れている時でも食べやすい糖質源の食品を選手と話し合う必要性があると考えます。
夕食は、野菜や果物、乳製品が摂れておらず、ビタミンやミネラルの不足が懸念されました。外食で果物や乳製品が摂れない場合は、コンビニでヨーグルトや果物を購入して補食として食べたり、帰宅してから摂ったりすることで補うことができます。今後は、これらを踏まえた提案を検討していきます。
今回はシクロクロスという種目のレースでしたが、マウンテンバイクやロードバイクのレースの場合は競技時間や補食を摂れるタイミングが異なるため、今後も各レースの特性や選手の状況に合わせた栄養補給計画を立案していきたいと思います。
まとめ
今回は、自転車競技選手における試合時の栄養補給計画についてご紹介しました。試合時の栄養補給計画は、選手や競技の特性、大会スケジュール、試合会場の周辺環境等に合わせて柔軟に対応する必要があります。どのような状況でもベストパフォーマンスが発揮できる栄養補給を行うために、スポーツ栄養士などの専門家に相談することも検討してほしいと思います。
〈参考文献〉
1)公益財団法人日本自転車競技連盟HP
CYCLOCROSS | 日本自転車競技連盟 WEB SITE (jcf.or.jp)
2) Louise M Burke,John A Hawley et al.(2011)Carbohydrates for training and competition J Sport Sci.Jun9 17-27
(文責)
後藤 佑月