海外遠征を長期間行うスノーボード選手へのレシピ提供
本コラムは、森永製菓inトレーニングラボにおける栄養サポートの一部をご紹介いたします。
試合や合宿のために、長期間にわたって海外遠征を行うアスリートがいます。海外遠征期間中は、食環境が変わるため、必要な栄養素を十分に摂取することが難しい場合もあります。
しかし、ベストパフォーマンスを発揮するためには、コンディションを維持する必要があり、そのためには普段と同様に十分な栄養素を摂取することが重要となります。
そこで、今回はスノーボードのA選手におけるサポートをもとに、海外遠征期間中に不足しがちな栄養素と、それらを簡単に摂れるレシピをご紹介します。
競技の背景
スノーボードの遠征先は主にアメリカ、中国、ヨーロッパの山岳部が多く、大会の1ヶ月前から合宿を行うため、シーズン中(11~3月)の大部分を海外で過ごします。また、オフシーズン中も海外で約20日間の合宿を行うため、1年のうち半年間ほど海外に滞在します。
選手の状況と課題
コンディションの課題
A選手が抱えていた課題は、大会前に口内環境が変化しやすく、これが注意力散漫につながることでした。また、遠征が長期間にわたり、普段と異なる環境にいることから疲労が蓄積しやすいため、リカバリーも重要な課題でした。
海外遠征中の食事の状況
海外遠征中は外食、あるいはキッチンのあるホテルの場合は簡単な自炊を行います。
食事調査を行った結果、特に自炊をしているときの食事は、ごはんとから揚げのみ、ごはんとベーコンのみなど食事選択に偏りがみられました。そのため、選手に必要なエネルギー、糖質、タンパク質、ビタミンB群、ビタミンA、ビタミンDが不足していました。
選手の課題と必要な栄養素
A選手の口内環境が変化しやすい理由は、皮膚や粘膜を保護するビタミンB群、ビタミンAの不足が考えられました1)。ビタミンB群は水溶性ビタミンであり、余分な量は尿として排出されてしまうので毎日の摂取が必要な栄養素です1)。
運動後は、エネルギーを確保し、筋肉のグリコーゲンを回復させるために、糖質とたんぱく質を十分に摂取することが必要です1)。また、寒冷環境では寒さによる身震いから筋肉のグリコーゲン消費が高まり、糖質の消費量が増えると報告されています1)。A選手は食事から糖質、タンパク質が十分な量を摂取できておらずエネルギーが不足していたこと、寒冷環境で糖質が消費されやすいことから、リカバリーが十分にできていないことが考えられました。
さらに、競技特性上、ビタミンDが不足しやすいことが考えられます。ビタミンDは皮膚に紫外線があたることで体内でも生成されますが、日照時間の短い冬に高緯度の地域で試合が行われること1)、スノーボードの選手は練習や試合中に顔の一部しか露出していないことから、十分に摂取することが必要です。
栄養素を補うための提案
糖質を十分に確保するために、パンやご飯の量を増やすことを提案しました。タンパク質、ビタミンA、ビタミンDを補うために、各栄養素が多く含まれる食品を現地購入、もしくは日本から食品を持参することを提案しました。ビタミンB群は、食材を現地で購入することが難しかったので、サプリメントから補うこととしました。
海外遠征に活用しやすい食品
海外遠征の場合は、重量や荷物の個数に制限があるため、日本から持参できるものに限りがあります。特にスノーボードの選手はボード、ブーツ、ウェアなど競技に必要な用具などを加味することから、持参できる食品の量に限りがあります。そこで、A選手が特に不足しがちなタンパク質、ビタミンA、ビタミンDを多く含み、遠征に持参しやすく活用しやすい食品として、プロテインパウダーやプロテインバー、ほうれんそうなどの緑黄色野菜をフリーズドライ状にしたもの、パウチに入っている鮭フレークや乾燥きくらげを提案しました(図1)。
朝忙しく、朝食をとることが難しい時や小腹がすいた時のエネルギー補給としてプロテインバーを活用してもらいました。昼食の時間前後に練習があるときは、昼食までの時間が遅くなってしまうので、プロテインパウダーを活用してもらいました。
また、現地で購入でき、手軽に調理できる食材として、にんじんやトマトを提案しました。にんじんは、ピーラーを使用することで包丁を使わずに調理ができ、ミニトマトやトマト缶は、そのまま料理に活用することができます。
不足しがちな栄養素を補う簡単レシピ
今後のサポートとして、遠征中に活用しやすい食品(図1)と現地で購入できる食品を使った、レシピ提案を行いたいと考えています。
A選手に不足しがちなタンパク質、ビタミンA、ビタミンDを補うことができるレシピです。包丁を使わず、ピーラーやハサミを使った料理となっています。
鮭とほうれんそうの和風パスタ
鶏肉のトマト煮
具沢山コンソメスープ
まとめ
今回は、スノーボードの選手が海外遠征中に不足していた栄養素とレシピについてご紹介しました。海外遠征中も、ベストパフォーマンスを発揮できるよう、コンディションを整えることが重要です。食環境が悪い中でも食事を調整できるよう、スポーツ栄養士などの専門家と連携を取りながら、工夫してほしいと思います。
〈引用文献〉
1)田口素子編:スポーツ栄養学-理論と実践-,(2022),市村出版,東京
〈参考文献〉
・厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2020年版)』 2020年
・文部科学省『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』2020年
(文責)
山縣美紗