階級制競技における減量期の栄養サポート
本コラムでは、森永製菓inトレーニングラボにおける栄養サポートの一部をご紹介します。
階級制競技では、試合に合わせて減量を行う選手が少なくありません。私がサポートをしていた選手も試合前に減量を行っていました。そこで、今回は柔道選手における減量期の栄養サポートについてご紹介します。
減量の流れ
柔道の公式計量は試合前日に行われ、試合当日は無作為に抽出された選手のみ再計量があります。前日計量は、出場する階級の体重未満にする必要があり、試合当日は出場する階級の+5%未満である必要があります1)(例えば100㎏級の場合、前日計量は100kg未満、当日計量は105㎏未満)。
サポート選手は、試合当日の1か月前から約2~5㎏の減量を行っていました。減量期間の設定は、栄養士の介入以前から選手自身が減量を行っていた期間であることに加え、コンディションや健康面から考えても問題のない範囲であると判断したうえで設定しました。
減量期の栄養補給計画
まず、減量を開始する日の体重から試合日までの減量幅に合わせて、エネルギー量の設定を行います。5㎏の減量が必要である場合は、通常のエネルギー摂取量から、-500~700kcal/日で設定しました。その他の栄養素の摂取量は、タンパク質を体重1kgあたり2.0~2.3g/日と設定し、炭水化物を体重1kgあたり3~5g/日で設定しました。
脂質は、タンパク質と炭水化物からのエネルギー量を差し引いた分とし、エネルギー産生栄養素バランスで、20%前後に設定しました。
サポート選手は、1食を少なめにして補食の回数を増やすことで、ストレスや疲労感も少なく減量ができるというコメントがあったため、1日5食に設定しました。
朝食は、食パンと高タンパク質なヨーグルトとプロテイン、昼食は、糖質が控えめに精製された玄米に、牛肉の赤身や鶏肉のソテーとサラダなどの野菜類と果物、練習前に大福などの糖質源を補給し、練習後にプロテインを摂取、夕食は、昼食と同様のメニューで構成しました(図1)。
試合5日前には、出場する階級の+2㎏の体重までに減量し、その後は急速減量の戦略2)を参考に、食物繊維量や塩分量を控え、エネルギー摂取量もさらに500kcal/日程度減らした食事に調整しました。計量前日からは、飲水制限と入浴やサウナなどによる受動的脱水も行い、計量日を迎える計画で行いました。
計量後は回復食をとりますが、この内容は選手が以前から実施していたお粥と焼き鳥缶、スポーツドリンクやオレンジジュース、コーラなどを組み合わせて摂取することとしました。その他、粉末スープや果物など胃腸の負担を考えつつ、エネルギー補給ができる食品を中心に摂取することとしました。
減量期のモニタリング
減量期は、客観的な指標として起床時排尿後の毎日の体重測定に加え、2週間に1回程度で皮下脂肪厚と周囲径の測定を行い、脂肪量の減少を確認しながら減量を進めました。
また、練習でのコンディションや疲労感の増加の有無などを確認しながら食事内容のヒアリングも行い、必要に合わせて微調整を行いました。
サポート選手は主観的な感覚に優れており、「来週くらいから体重が落ちると思う」「明日は少し体重が増えそう」などのコメントと客観的な指標が一致していたことから、選手の主観的感覚も重要視して減量を行いました。減量期のサポート内容を下記にまとめました(図2)。
減量の結果
減量期には、体重減少がやや停滞する週もありましたが、試合5日前には目標とする体重まで減量することができました。また、減量2週目頃に練習時の疲労感などが強くなる時期もありましたが、身体の適応と選手自身で休息や練習量のコントロールを行っていたため、怪我等もなく、試合当日を迎えることができました。
急速減量は、前日計量を軽度の脱水状態で実施しますが、回復食を計画通りにとれたことで、試合当日は疲労感や倦怠感もなく、良好なコンディションで試合に挑むことができました。
まとめ
今回は、柔道選手の減量について紹介しました。減量期の食事では、タンパク質量を確保しながら、炭水化物や脂質の量を調整し、全体のエネルギー摂取量や食事のタイミングも考慮して検討しました。
さらに試合の5日前からは、食物繊維の摂取を調整して食事のカサを減らすことや、塩分や水分量を制限し、軽度の脱水状態にして前日計量を迎え、試合当日には既定の体重まで回復させる方法を行いました。
このように、階級制競技では急速減量を行う場合もあると思います。
しかし、適切なアプローチを行わなければ、減量によるパフォーマンス不良や障害が起こる可能性があるため、スポーツ栄養士などの専門家と連携を取りながら、試合でのパフォーマンス発揮につながる減量を行ってほしいと思います。
〈引用文献〉
1) IJF_Sport_and_Organisation_Rul-1682351164.pdf (rackcdn.com)(参照日:2023年12月115日)
(文責)
三好友香