β-アラニンは、エルゴジェニックエイド※1の1つであり、パフォーマンス向上が期待されています。β-アラニンとは、食品中にも含まれているアミノ酸の一種で、体内では主に筋肉中に含まれ、カルノシン合成を促進します。
カルノシンは、ヒスチジンとβ-アラニンが結合したジペプチドで、高強度の運動中に起こる、筋肉pHの低下を中和する重要な働きをしています。体内のβ-アラニンの量は限られているため、食事やサプリメントからの摂取がカルノシン合成において重要となります1)。複数の研究で、β-アラニンの補給により除脂肪体重の増加、トレーニング量の増加などが報告されています2)。
アスリートの中には、特にオフシーズン中などに、キャンプや長期合宿などにおいて高強度のトレーニングや練習を連日行い、コンディションを整えたいと考えている方もいると思います。
そこで、トレーニング強度が高くなる時期におけるβ-アラニンの使用に関してVicente Ávila-Gandía et al.(2021)の文献を参考に、活用方法を検討しました。
※1 運動能力に影響する可能性のある栄養素や成分
(Evidence)
β-アラニンは、世界的にトップアスリートから人気のあるサプリメントの1つであり、国際オリンピック委員会によって承認されている5つのサプリメントの1つでもあります。
研究の目的は、オーバーリーチングトレーニング※2中のワールドツアーサイクリストのタイムトライアルパフォーマンスを維持するためにβ-アラニンの粉末を使用し、1週間の高用量β-アラニンローディングの効果を調査することでした。
対象者は、11名の世界チームに所属しているワールドツアーサイクリストです。オーバーリーチングトレーニング※2キャンプの7日間に、二重盲検試験で行われました。β-アラニン群(BA)とプラセボ群(PL)に無作為に割り当てられ、BAは、1日4回、食事の直後(朝食、昼食、間食、夕食)に4時間以上間隔をあけて摂取しました。
1回の摂取量は、β-アラニン5g、L-ヒスチジン37.5mg、カルノシン12.5mgで構成されていました。
結果として、介入後、PLよりもBAにおいて移動距離(distance travelled)が2.16%増加および総作業量(total work)が4.85%増加していました。
これは、トレーニング強度が増加した短期間における高用量のβ-アラニン摂取は、プラセボと比較して、サイクリング能力と走行距離を改善したことから、パフォーマンスの低下を軽減することに寄与したと考えられます。
※2 個人の能力以上の運動を十分な回復を設けずに行う短期間のトレーニング
(文献)
上記文献では、短期的に高用量摂取した場合の報告でしたが、他の研究では、1日あたり3.2~6.4gの範囲の用量を4~12週間摂取した場合の報告もあります1) 。
選手の競技による期分けや目的に合わせて、摂取量や摂取期間を慎重に検討することで、エルゴジェニックエイドとしてのβ-アラニンの働きを活用することができると考えます。
また、β-アラニンは摂取直後(5~10分後)に、手のひらや肌にピリピリとした感覚が生じる場合があり、これはβ-アラニンフラッシュと呼ばれます。刺激を感じる人もいれば、感じない人もいますが、身体に健康上の問題はないことが報告されています4)。対策としては、複数回に分けて摂取すると症状を抑えられると言われています。
アスリートにとって、パフォーマンス低下の軽減や、それに伴う運動能力の改善は、常に向き合っている課題かと思います。β-アラニンは、食事とサプリメントの両方から摂取することができるため、競技や各選手の生活スタイル等に合わせながら取り入れてみてはいかがでしょうか。
私がサポートしているプロ野球選手(投手)で例えると、シーズン中となる3月~10月は食事からβ-アラニンを摂取するようにします。そして、オフシーズン(自主トレーニング期)となる11月~2月は、高強度のトレーニングや練習を日々行うことから、パフォーマンス低下を軽減するために、サプリメントを活用した高用量のβ-アラニン摂取を提案しています。
β-アラニンの含有量情報は無いため、アラニン(α+β)の含有量について記載します。
食事からβ-アラニンを摂取するためには、下記の食品を日常の食事に取り入れるように意識してみて下さい。
豚肉のゼラチン部分に多く含まれるほか、動物性食品に多い傾向があります。
β-アラニンを摂取することは、パフォーマンスなどに影響し、高強度のトレーニングが短期間で行われる合宿やキャンプ中には、高用量の摂取方法もあることがわかりました。目的や期分けに応じてβ-アラニンの摂取量や摂取期間を工夫しながら、必要に応じて活用してみてはいかがでしょうか。
参考文献
(文責)
山上はるか