アスリートがサプリメントを活用する目的は、競技レベル、競技種目、年齢などによって異なりますが、アスリートのサプリメント使用率は40~100%と報告されています1)。
サプリメントは、食事から不足する栄養素を補うための「ダイエタリーサプリメント」と、パフォーマンス向上のために特定の効果が期待される「パフォーマンスサプリメント(以下、エルゴジェニックエイド)」2)と大きく2つに分けられます。特に「エルゴジェニックエイド」を使用する際には、適切な使用方法と必要量を十分に確認し、安全な製品を選択する事が重要です。
エルゴジェニックエイドに分類されている物質名は、クレアチンやβアラニン、カフェインなど様々です。その中でアミノ酸の一種であるカルニチンは、有酸素性能力を高めることや体脂肪量の減少などを目的として使用することが多いと思います。
そこで、Mielgo-Ayuso, Juan, et al.(2021)の「カルニチンの摂取が運動強度によってパフォーマンスに及ぼす影響について」のレビュー論文を参考にして、カルニチンの活用方法について理解を深めました。
L-カルニチン(L-C)は、アシル・コエンザイムA(CoA)の膜輸送に必須な因子であり、肝臓や腎臓での脂肪酸の酸化に関与するジペプチドです。骨格筋のカルニチン濃度が増加すると、酸素消費量および持久力が向上することや筋肉の回復を向上させることなどが考えられています。
これらの理由により、L-カルニチン(L-C)の補給は、代謝経路に対する生理学的※1および潜在的※2な複数の効果から、中強度および高強度の運動における運動能力を向上させることが示されています(図1)。
そこで、今回のレビュー論文の目的は、中強度(50~79%VO2max)および高強度(80%VO2max以上)の運動パフォーマンスに対するL-C経口補給の効果を明らかにし、有効な摂取量と理想的な摂取タイミングを示すことです。
分析の結果から、高強度の運動は、運動60~90分前に3~4g摂取もしくは、2~2.72g/日を9~24週間摂取すると、パフォーマンスが改善されていました。しかし、中強度の運動は、摂取する期間に関わらず、パフォーマンスの改善を示しませんでした。
※1 生理学的:からだの組織や機能に関すること。
※2 潜在的:外に現れず、中に隠れた状態で存在すること。
(文献)
1日に必要なカルニチンは、体内で合成されるため、普段から意識して摂取する必要はありません。また、カルニチンは、赤身の肉や魚や、ホエーを含む乳製品などの動物性食品に多く含まれています。そのため、ベジタリアンなど動物性食品を控えた食事をしていなければ、サプリメントからではなく、食事からとることが可能です。
ただ、日常的に激しい運動を行っているアスリートは、エネルギー必要量が増えるため、食事だけでは必要量を満たすことが難しい場合もあります。あるいは、身体組成の改善、トレーニングや練習の向上などを通じてパフォーマンスを高めることを望みます。今回のレビュー論文では、カルニチンのサプリメントを使用することで、高強度運動パフォーマンスに影響があると紹介されていました。そのため、アスリートは、カルニチンのサプリメントを活用することもあると思います。
実際に私がサポートを行っている選手の中には、カルニチンを活用している人もいます。体重別階級の選手は減量期間になると目標体重を達成する日の2ヶ月前からカルニチンを摂取しています。減量期間は、体重を落とすためにエネルギー摂取量を減少させますが、試合に向けて練習強度が上がる時期と重なるため、疲労の蓄積やけがの懸念も高まります。
このようなことから、食事の調整に加えて、脂肪酸をミトコンドリアに運んでエネルギーに変換するカルニチンの働きを利用し、筋肉量を維持して体脂肪量を落としやすくする環境を作っています。
実際に摂取してみて、選手の主観的評価は良いことと、トレーニング中の動きや身体計測の結果も良いことから、カルニチンを継続的に活用しています。
ただし、サプリメントは、あくまでも補助食品であるため、食事からの摂取を基本として考えることが大前提です。特に減量の場合、まずはエネルギー消費量とエネルギー摂取量のバランスを調整することが重要です。それらを考慮したうえで、選手にサプリメントの使用について提案しています。
カルニチンのサプリメントを活用する際は、高強度運動のパフォーマンスに影響があることが示唆されました。
ただし、サプリメントを活用する前に、まず良いコンディションを維持するためのベース作りが大切です。そのため、第一優先として普段の食事を整えた上で、目的に合わせたサプリメントの使用を検討してみてはいかがでしょうか。
(文責)
吉本 寛那