ヴィーガン食とスポーツパフォーマンス~タンパク質に着目して~
ヴィーガン食は、植物由来の食品中心の食生活で、動物性の食品を食べないことを指します。ヴィーガン食をとりいれる理由は、環境負荷への配慮や、動物愛護、宗教、健康のためなど様々だと思います。アスリートの中でも、興味を持つ人が増えてきているように思います。また、以前のコラムでは、ベジタリアンアスリートのサポートの実践について掲載しています。
・ベジタリアンアスリートのタンパク質摂取は?
https://www.morinaga.co.jp/protein/dietitiancolumns/detail/?id=13&category=special
本コラムは、アスリートのスポーツパフォーマンス(以下、パフォーマンス)に関わるメカニズムをもとに、ヴィーガン食について述べられているAhmed, A., et al.(2022)の文献を紹介し、アスリートの身体づくりや激しい運動により必要なエネルギー量が多くなり、摂取量が増える「タンパク質」に着目してまとめました。
実際に、アスリートのサポート現場でヴィーガン食の対応に直面したときに、そのメカニズムや考え方の知識を身につけておくことで、より良いサポートに役立てられればと思います。
(Evidence)
ヴィーガン食は、パフォーマンスに欠かせないエネルギー源となる炭水化物が豊富に含まれているうえ、抗酸化物質も含まれています。一部の研究者は、炭水化物や抗酸化物質が豊富なヴィーガン食が、リカバリーや健康状態を良くすることに役立つことで、パフォーマンスを向上させることを報告しています。
また、ヴィーガン食は、低エネルギーで栄養素が豊富に含まれるため、特に体重が直接パフォーマンスに影響する階級別競技や審美系競技、水泳などで需要があります。
一方で、ヴィーガン食に豊富な食物繊維やフィチン酸、タンニンなどは、重要な栄養成分である鉄や亜鉛、タンパク質などの生体利用率を妨げます。そのため、一部の専門家は、ヴィーガン食ではタンパク質の摂取量を多くする必要があると推奨しています。さらに、ビタミンB12が不足する懸念もあります。
また、ヴィーガン食のタンパク質源は、9種類の必須アミノ酸のうち1種類以上が欠如しているため、動物性のタンパク質に比べて質が劣るとされています。具体的には、穀物でリジンとスレオニン、豆類でメチオニンとトリプトファン、シスチン、ナッツ類でリジン、とうもろこしでトリプトファンが不足しています。そのため、ヴィーガン食を食べている人は、必須アミノ酸が揃うように様々なタンパク質源をとることが必要です。
さらに、筋タンパク質合成のことを考えると、前述したタンパク質源に加えて、クレアチンが不足することも、アスリートのパフォーマンスに対して懸念されています。
ただし、ヴィーガン食がパフォーマンスの向上に影響があるかについては、データが限られており、更なる研究が必要です。
文献より図引用 文責者和訳
(文献)
*サポート現場での活用
上記文献で紹介したヴィーガン食は、基本的に全ての動物性食品を除去する食事ですが、ベジタリアンの中には、乳製品や卵は食べるという人や、たまに肉類も食べるという人等、除去の程度は様々です。そのため、実際に不足する栄養素は、除去する程度によって大きく変化すると思います。
また、アスリートのパフォーマンスにポジティブに働くとされる栄養素についても、その選手の課題や、現状の栄養素等摂取量、トレーニングや練習の状況によって、実際の身体への影響は異なると思いました。
例えば、日頃から動物性食品を多く摂取する食生活をしているアスリートは、良質なタンパク質を摂取できていたとしても、その量が多い場合は、腸内環境への影響も懸念されます。また、全体の食事バランスで炭水化物が不足していると、リカバリーに課題があるかもしれません。関連するコラムも是非ご覧ください。
・高タンパク質摂取が及ぼす腸内環境への影響は?
https://www.morinaga.co.jp/protein/dietitiancolumns/detail/?id=3&category=special
また、栄養素の吸収を妨げるとしてあげられていた食物繊維は、腸内環境を整える役割もあるため、良い影響となり得ることもあると思います。特にこのような場合は、ヴィーガン食がパフォーマンスのために役立つかもしれません。
さらに、必須アミノ酸が不足することの懸念については、日本人の食事摂取基準2020年版に年齢ごとの必要量がそれぞれ示されており、日本食品標準成分表2020年版のアミノ酸成分表編に、各食品に含まれるアミノ酸が細かく示されています。それを基に、ヴィーガン食の献立一例と必須アミノ酸量を図示しました。是非、参考にしてみてください。
・日本人の食事摂取基準2020年版 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf P118-119(参照日:2022年10月16日)
・日本食品標準成分表2020年版(八訂)
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_022.xlsx
(参照日:2022年11月5日)
ただし、食品中のタンパク質のアミノ酸組成は、化学的に分析されて計算されたものであり、実際に摂取する場合は、タンパク質の消化吸収率や加熱などの調理で変化することを考慮する必要があることが示されています。
サポートを行ううえでは、選手の課題や現状によって、ヴィーガン食の影響が異なることを理解しておくことが重要だと思います。また、ヴィーガン食をとりいれる中で、パフォーマンス、血液検査や身体組成などから、身体の変化を十分に確認しながら、実際に現れる良い面、悪い面を精査していくと、より良いサポートに繋がるのではないかと思います。
まとめ
ヴィーガン食は、アスリートのパフォーマンスの観点からとらえると、メリットとして考えられることがある一方で、必須アミノ酸の組成を揃える必要があることや、生体利用率が低くなる点などから十分に気を付けてとりいれる必要があることが分かりました。
ヴィーガン食に興味をもっているアスリート、パフォーマンスに関わる課題を解決したいアスリート、そして、そういったアスリートのサポートに携わる方々にとって、有益な情報になり、適切に活用して頂くことで、お役に立てれば幸いです。
(文責)
高倉 弥希