まだあまり馴染みのない言葉だと思いますが、「フードファーストアプローチ」という言葉はご存じでしょうか?
「フードファーストアプローチ」とは、言葉通り、必要な栄養素を摂るために、食事を第一に考える方法です。この食事とは、日常的にスーパーなどで購入できる新鮮な野菜や果物、肉や魚、卵、大豆製品、牛乳・乳製品などを活用した一般的な食事のことを指します。
普段の食事では、多くの人がこの「フードファーストアプローチ」を行っていると思います。一方で、簡便に栄養が補給できるサプリメントを摂る方も増えていると感じています。
一般の方は、忙しいときの合間に手早く栄養補給をするために活用していたり、アスリートでは競技のためや、簡便に特定の栄養素を補給するために活用していたりすると思います。実際に、2016年のリオデジャネイロオリンピックに出場した日本人選手の92.5%が、何らかのサプリメントを活用していました1)。
サプリメント自体がいけないわけではないですが、日常的に手に入る食材を活用した食事から、栄養を摂ることの意義やメリットも考える必要があると思います。
そこで今回は、Burd et al.(2019)の文献を参考に、筆者の見解を含めて「フードファーストアプローチ」についてご紹介します。
現在は、サプリメントなどの単独のタンパク質摂取での筋タンパク質合成反応や、必要量についての研究が多く見られます。実際に一般的な食品から摂取した場合の効果についてはデータが限られています。
このレビューの目的は、サプリメントでのタンパク質の単独摂取ではなく、食品から摂取することの相互作用に着目し、食後の筋タンパク質合成を引き出すための、タンパク質摂取について検討します。
普通牛乳と無脂肪牛乳での研究や、牛肉とスキムミルクでの研究などがありますが、全卵と卵白での研究では、全卵の方が運動後の筋タンパク質合成をより強く促進しました。これは、全卵の方が様々な栄養素が多く含まれることが影響しているのではないかと考えられています。
このように、タンパク質を含む一般的な食品の摂取は、その食品のタンパク質以外の栄養素や栄養成分との相互作用により、食事中のアミノ酸の利用が促進され、運動後の筋タンパク質合成が高まる可能性があります。
結論として、運動後のタンパク質摂取において、フードファーストアプローチは、骨格筋の適応反応と、食事の質の向上の両面に有益です。
その他にも、kawamuraらは食品からカロテノイド類の摂取量を増加させることで、「レジスタンストレーニング後の筋力と安静時エネルギー代謝の適応を強化させ、主観的な疲労の軽減にもつながった」2)と報告しています。筋量のことを考え、タンパク質摂取量の増加を検討する人は一定数いると感じていますが、食品の相互作用を考えると、タンパク質以外の栄養素も重要であることが見えてくると思います。
また、国際オリンピック委員会のスポーツ栄養に関するコンセンサス(2010)では、「一般的に入手可能な幅広い食品から十分なエネルギーを摂取できる食事は、トレーニングや競技に必要な炭水化物、タンパク質、脂質、微量栄養素の必要量を満たすことができる」3)と記載されています。ただサプリメントに頼るのではなく、手に入りやすい一般的な食材を活用した食事を摂ることが、一般の人に限らずアスリートにおいても重要であることがわかります。
フードファーストアプローチとは、一般的な食品からの食事を中心とした考え方ですが、サプリメントを使ってはならないというわけではありません。食事と、サプリメントの両面のメリットやデメリットを理解したうえで検討するとよいのではと考えます。
サプリメントとその活用シーンの具体例を下記に示しました。
このように、サプリメントのメリットは多々あり、適切に活用することができれば、選手にとって有益になると思います。一方で、普段の食事がおろそかになっては、サプリメントの影響も薄れてしまうことも考えられるので、やはり一般的な食品から摂る食事を中心としたうえで、必要に合わせてサプリメントを活用することが重要ではないかと考えます。
下記に、一般的な食品から摂った場合の例を示しました。タンパク質量を増やしたい場合には、牛乳を使ったスムージーを作ったり、鮭やツナなどを使用した、具だくさんおにぎりにしたり、肉料理と魚料理の両方を提供するなど、様々な方法があります。衛生面が気になる場合では、常温保存が可能なお団子やバナナ、ドリンクなどを活用することもできます。
栄養素は単独ではなく、様々な栄養素や栄養成分の相互作用によって、身体の中での役割を果たします。今回は、一般的な食品からのタンパク質摂取における筋タンパク質合成について検討しました。
食品から摂ることで、様々な相互作用を生み出す可能性が考えられました。単一の成分についての研究が多く、まだ知られていない相互作用もあると考えられます。そのことを考えると、食事をバランスよく摂ることの意義やメリットがより深まるのではないでしょうか。
(文責)
三好友香