地震や豪雨、台風などによる自然災害が発生すると、土石流や、河川氾濫、洪水などの影響で住宅地に土砂やがれきが堆積する被害が起こります。被災地で一刻も早い救出・復旧・復興に向けて各地域の消防士や自衛隊・ボランティアなどの方が集結し、被災地の方と作業を行います。また、被災者の健康を守るために、医師や看護師・介護士の方々、被災地への物資運搬の手配などを行政や職員が限られた人数で活動されていることと思います。
このように、激務が続く現場では消費エネルギーが高くなることが考えられます。
消費したエネルギー量を補給するためには食事が重要です。それに加えて、災害が起こるとライフラインが途絶え、調理する環境が難しく、限られた非常食からエネルギーを補給しなくてはいけません。
そこで、災害現場で任務遂行の重要な一翼を担う消防隊員に必要な摂取エネルギー量に着目した論文をご紹介します。
大規模災害発生時の実践現場経験のある東京消防庁の消防職員5名を対象に1日の消費エネルギーが3,500kcalとなるような運動を3日連続で行った。1日の食事エネルギーは、約2,700kcalとし、不足しているエネルギー量は、カンパンもしくは魚肉ソーセージを追加した(表1)。対象者は、毎食ごとに食べ残しのものとその量について回答し、実験終了後は現場で、カンパンまたは魚肉ソーセージを食べることに関する感想を記載した。
結果、総摂取エネルギー量と1日平均摂取エネルギー量は、カンパン群と比較して、ソーセージ群では有意に高値を示した。食べ残しは、表2の通りであった。カンパン・魚肉ソーセージについての自由記述は表3にまとめた。
結論、カンパンから魚肉ソーセージと同じエネルギー量を摂取することは困難であった。魚肉ソーセージは、水分を必要とせず食べたことが受け入れられ、食べ残しもなかった。
(文献)
緒形ひとみ、多田元比古、小泉奈央、赤野史典、玄海嗣生、高橋義宣、麻見直美(2019)消防隊員の総摂取エネルギー量に着目した魚肉ソーセージの効果検証.日本災害食学会誌.6 (2) ,57-62
〇現場での応用
今回は、災害現場で活動する消防隊員を対象とした研究ですが、現地で土木などの撤去作業を行う業者やボランティアの方も同じような肉体労働を行います。他にも物資の搬送作業をする方や医療従事者も激務が続くことにより、消費エネルギー量が多くなることも共通すると考えられます。したがって、エネルギー補給に気を付けて栄養補給することが重度なポイントとなってきます。
災害現場の食事内容は、前回のコラム(被災に伴い不足しがちなでタンパク質や微量栄養素を摂取するポイントは?)で、麺類やおにぎりなどの糖質が多く、タンパク質や微量栄養素が不足しがちなため、非常食を準備する際にタンパク質を多く含むものを用意することが大切とお伝えしました。さらに今回の論文から災害現場では、飲料水を十分に確保できないことで完食できず、摂取エネルギーが変動することも挙げられました。実際にカンパンと魚肉ソーセージに含まれる水分量を比較すると、100gあたりカンパンは5.5gに対して、魚肉ソーセージは66.1g¹⁾と12倍も多い結果でした。
以上のことを踏まえて、非常食の準備や災害現場に向かう際に持参する補食は、食品中の水分量も考慮することが必要であると思います。例えば、常温でも保管可能なサラダキチン、魚介類の缶詰などがあります。
災害現場で活動する際のエネルギー補給のポイントは、飲料水を追加することなく完食できる商品を選択することです。食べ残しの有無に関係する要因は、食品中に含まれる水分量が挙げられます。そのため、一度日常生活や職場に取り入れて、自身にあった「手軽で飲料水を追加せずに食べきることができる商品」を非常食として準備してみてはいかがでしょうか。
1)日本食品成分表2021
(文責)
吉本 寛那