筋タンパク質合成に関わるビタミンDと運動能力の関係は?
アスリートの栄養サポートは、「筋肉」に影響する栄養素として「タンパク質」に注目することが多いですが、タンパク質以外にも筋肉との関係性が深い栄養素について探求したいと思い、今回は「ビタミンD」に着目しました。
ビタミンDは、紫外線により皮膚でつくられるため、屋内スポーツや冬季スポーツでは不足しやすいこともあります。日本人の食事摂取基準2020年版では、「骨折のリスクを上昇させない必要量」として指標にもなっており、骨代謝との関連も明らかになっています。選手サポートにおいても、骨の健康維持の観点から不足がないように指導することが多いですが、筋肉との関連で「不足すると、どのような悪影響が考えられるのか」を整理することも選手とのコミュニケーションに役立てられると思います。
このような背景から、今回は、ビタミンDと筋肉及び運動能力について述べられているAnna Książekら(2019)のレビュー論文を参考にしてみました。
Evidence
アスリートのビタミンD状態を調査した科学的報告では、身体の有核細胞におけるビタミンD受容体(VDR)によって、ビタミンDの様々な性質を実証しています。活性型ビタミンDは、筋肉組織の多くの代謝プロセスを活性化し、タンパク質合成が刺激され、タイプⅡ筋繊維※1が増加します。これは、筋肉の収縮速度と筋力の増加につながります。
ビタミンD欠乏症は、「ミオパチー※2」「筋収縮の低下」「タイプⅡ筋線維※1の劣化」の一因となる可能性があり、筋力、パワーなどに悪影響を与える可能性があります。Pludowskiら(2018)によるビタミンDのガイドラインでは、血清25(OH)D※3の正常範囲を30~50ng/mlとしています1)。
運動能力との関連について、最大酸素摂取量の報告がいくつかあります。健康で活発な大学生における研究では、血清25(OH)Dが35ng/mlを超える学生は、低値の学生よりも最大酸素摂取量が有意に高いことが報告されています2)。一方で、プロのアスリートにおける研究では、決定的な結果が得られていない報告も多く、ビタミンDと最大酸素摂取量の関係は、身体活動レベルがより高い人(プロのアスリートなど)では確認できなかったという報告があります3)。
また、ビタミンDを補給することによって、筋肉のVDRが増え、筋タンパク質合成が刺激されることから、筋力低下が改善され、主に高齢者における転倒による骨折のリスクを下げることが報告されています4)。アスリートでは、一部プラスの影響(短距離走時間や垂直跳びの高さ)の報告がある5)6)ものの、ビタミンD補給が筋力に及ぼす影響を示していない報告が多数あります。ビタミンD補給による筋肉への影響は、血清25(OH)Dが低い集団や高齢者で大きい可能性を示唆しています。
※1 タイプⅡ筋線維:白筋線維、速筋。収縮速度が速い。
※2 ミオパチー:筋肉に異常が生じることで引き起こされる病気の総称。
※3 血清25(OH)D:体内のビタミンDを評価する血液検査の項目。
サポート現場での実践
今回の文献を通して、「ビタミンDは筋肉のタンパク質合成を刺激する」役割があるため、アスリートのパフォーマンスにおいて重要だということが分かりました。一方で、身体活動レベルが高い場合は、ビタミンDと最大酸素摂取量に相関がみられない傾向であることや、運動能力の向上を目的としたビタミンD補給は、ビタミンDが不足・欠乏の場合や、高齢者を対象に良い影響が出ている傾向であること分かりました。
我々が日々サポートしているトップアスリートで実践する場合は、「不足することで、骨のみではなく筋肉の健康維持にも影響が及ぶ可能性がある」ということを踏まえて、日常的に十分なビタミンD補給を意識することとともに、ビタミンD不足の有無を定期的に確認するべきだと思いました。多忙なアスリートであっても、定期的なメディカルチェックで血清25(OH)Dを測定することが、リスク管理に役立つのではないかと思います。
食事から摂取するビタミンDについて考えると、魚類(特に鮭)に多く含まれており、それ以外では干し椎茸、木耳、卵にも多少含まれますが、その他の食材にはあまり含まれないのが特徴です。そのため、魚の摂取頻度が少ない食生活や、嗜好等により偏った食事が続く場合は、不足のリスクが高いのではないかと思います。
(日本食品成分表2021八訂を参考に文責者作表)
また、今回は主に筋肉と運動能力との関連性の部分のみを抜粋して紹介しましたが、文献内では紫外線による皮膚でのビタミンD産生の重要性についても述べられていました。そのため、競技特性や生活習慣についても十分に考慮が必要だと思います。
以下に今回紹介した内容のポイントをまとめました。
(文責者作図)
日々の選手サポートにおいて、なるべく怪我や体調不良は起こる前に防ぐことがとても重要で、身体の状態・コンディションを選手本人と一緒にきちんと確認するべきだと感じています。今回の文献でまとめられていた「筋肉および運動能力とビタミンDの関係」についても、選手やその他サポートスタッフとのコミュニケーションの中で、正しい情報をわかりやすく伝え、競技パフォーマンスに良い影響となるよう、役立てられればと思います。
(文責)
高倉 弥希