トレーニングを習慣的に行っている人は、日頃のタンパク質摂取について意識されているのではないでしょうか?運動後のタンパク質の摂取量や種類、タイミングが、筋タンパク質合成を調節する要因になることが報告されています。アスリートは、目標とする大会に向けてトレーニングを行う中で、より効率的な身体作りが求められ、運動と栄養補給による身体の変化には十分配慮が必要だと思います。また、アスリート以外の多くの人も、トレーニング後の身体の変化や疲労をコントロールしながら仕事や日常生活との両立を目指していると思います。
レジスタンス運動後のタンパク質摂取が重要なことは、多くの方が知っているかもしれませんが、リカバリー期間は直後のみではなく、長い期間持続すると考えられています。
そこで、今回はレジスタンストレーニングと就寝前のタンパク質摂取に着目したJorn Trommelenら(2016)が発表しているレビュー論文を紹介します。
卵や乳製品、肉類、大豆製品などの多種多様な食事から摂取するタンパク質源が、運動後の筋タンパク質合成を刺激することが示されています。
1日3食の食事からのタンパク質摂取は、均一な量で配分することが、夕食時に大部分を摂取するよりも、持続的に筋タンパク質合成を刺激します。運動後、筋タンパク質合成をサポートするためには、1食あたり少なくとも20gのタンパク質を補給し、食事の間隔を4〜5時間以内にすることが重要です。
一晩の睡眠中は、栄養補給ができないため、運動後の夜間に筋タンパク質合成を促す手段として、就寝前のタンパク質摂取に着目します。睡眠中の腸では、適切に消化吸収能が機能し、血中アミノ酸利用率が上昇することで、筋タンパク質合成を促進することが分かっています。
実際に、12週間のレジスタンストレーニングプログラム(週に3回の運動セッション)に参加する健康な若い男性を対象とし、睡眠前にタンパク質を摂取したグループでは、筋肉量と筋力が大幅に増加しました1)。一方で、タンパク質補給は、特定のタイミングではなく、主に総タンパク質摂取量に関連して筋肉量を増加させる報告もあります2)3)。したがって、就寝前タンパク質摂取は、1日の総タンパク質摂取量・タイミングを増やし、一晩の筋タンパク質合成を高めるための実用的な戦略といえます。
図1のAは、1日3食の食事のみの場合、Bは就寝前にタンパク質を摂取した場合の、筋タンパク質合成と筋タンパク質分解の比率を表したグラフです。タンパク質摂取によって筋タンパク質合成が刺激され(緑の領域)、吸収後は、分解が合成の比率を上回ります(赤の領域)。一般的な食後期間(夕-翌朝:8時間・朝-昼・昼-夕:4〜5時間)を比較して、睡眠中の絶食時間が長いことを考えると、就寝前のタンパク質摂取が、睡眠中の筋タンパク質合成を刺激すると考えられます。また、筋タンパク質合成を最大にするためには、多くのタンパク質が必要であると推測されます。
図1. 筋タンパク質合成(MPS)と筋タンパク質分解(MPB)の
プロセスの1日の概略図(文献より引用)
タンパク質摂取により、筋タンパク質合成が促されますが、レジスタンストレーニングを組み合わせることで、一晩の筋タンパク質合成速度をさらに高め、食事から摂取するタンパク質源が筋タンパク質の蓄積に使用される効率を高めるための戦略といえます。一方で、持久系パフォーマンスへの影響(骨格筋酸化能力・血管密度など)については、明確ではありません。
レジスタンストレーニングを行う人にとって、就寝前のタンパク質摂取は、筋タンパク質合成を促すために役立つ手段といえると思います。しかし、Patrick et al.⁴⁾が発表している比較的新しい論文では、午前中にレジスタンストレーニングを行い、就寝前のタンパク質摂取を行ったとしても、1日の総タンパク質摂取量が十分量確保されていない場合は、リカバリーに至らなかったことが報告されているので、全体的な栄養補給の内容や量が十分であることも重要だと思います。
サポートアスリートの中には、練習やトレーニングの内容及びスケジュールに合わせて、就寝前のタンパク質摂取を強化している選手もいます。ただし、1日を通して摂取する栄養素等に不足や偏りがないように気を付けています。また、夕食が遅くなる場合は、就寝までの時間が短いため、就寝前のタンパク質摂取は行わない場合もあります。総合的にコンディションやパフォーマンスにネガティブな影響を与えてしまわないように、考慮が必要です。
今回ご紹介したレビュー論文を実際に現場で活用する場合、スケジュールを考慮した摂取タイミングのイメージを、一例として以下の図にお示します。
(文献を基に文責者作成)
競技力向上のため、日々の健康のため、トレーニングや栄養補給の目的は様々だと思いますが、レジスタンストレーニングと就寝前のタンパク質摂取について理解することで、適切でより効率的な身体作りに取り組むことができるのではないでしょうか。就寝前のタンパク質摂取についての要点を、表にまとめていますので、参考にしてみてください。
(文献を基に文責者作成)
(文責)
高倉 弥希