アスリートがトレーニングをする目的は、競技力向上のための身体づくりのほかに、傷害予防のための正しい身体の使い方を身に付けることにもあると思います。一方で、コンタクトスポーツをはじめとして、それぞれのスポーツ特有の「怪我」があり、重症度によっては長期的に競技を離脱せざるを得ないことも事実だと思います。
実際に、日々の選手サポートにおいて、練習やトレーニングを休まなければいけない怪我を目の当たりにすることもあります。怪我をすることによって、運動量が減少するため、その分のエネルギー必要量は少なくなると考えられますが、除脂肪体重の減少を最小限にとどめる為に、タンパク質補給も意識する必要があると思います。
怪我による運動の制限や、手術などの治療方法によって、身体の状態は変化するため、それに応じて適切な栄養補給を行うことが、早期復帰のために重要だと思います。このような背景から、「怪我からの復帰」に着目し、Turnagöl et al.(2022)の文献でタンパク質の役割について理解を深めました。
怪我をしたアスリートの競技復帰は、スポーツ医学、スポーツ心理学、スポーツ栄養学など様々な分野の協力によって決まります。怪我による固定期間は、筋肉量や筋力の低下を伴い、健康や競技パフォーマンスに悪影響を及ぼします。怪我からの回復過程では、筋タンパク質の分解が加速するため、除脂肪体重が減少する懸念もあり、食事からのタンパク質摂取が重要です。また、治癒に必要なタンパク質合成のために、タンパク質摂取量を増加させることが栄養戦略の一つです。一方で、アスリートが普段食事から摂取しているタンパク質摂取量で充足できており、追加する必要はないことも示唆されています1)。
下図に怪我の時に起こる身体の反応を示しました。手術やストレスにより、異化が進みます。そのため、エネルギー需要が高まることも報告されています。
文献2)より図引用 文責者和訳
また、リハビリの段階における栄養補給について、具体的な補給量やタイミングを示した図もあります。特にタンパク質は1回の食事で20~40gを摂取することと、起床後1時間以内、その後3~4時間ごと、リハビリの前後、睡眠前のタイミングが推奨されています。
文献2)より図引用 文責者和訳
研究結果は様々な報告がありますが、怪我からの回復過程における除脂肪体重の減少や筋委縮を抑制するために、タンパク質摂取を考慮する必要があります。また、急激な体重減少を防ぐためにエネルギーバランスを十分にモニタリングすることが重要です。
(文献)
タンパク質の摂取量を十分に確保することが重要ですが、エネルギーのバランスにも配慮が必要だと思います。手術やストレスによるエネルギー需要が高まる報告があるため、その分のエネルギーは確保する必要があります。一方で、運動量が減少することからその分のエネルギー消費量は少なくなります。怪我の重症度によってこれらのエネルギーバランスは大きく変動すると考えられるため、医師や理学療法士などの他職種との連携も重要だと思います。
食事摂取においては、タンパク質やエネルギーの観点で食材選択に注意が必要だと思います。具体的には、タンパク質を多く含む食材「肉、魚、魚介類、卵、大豆製品、乳製品」のなかでも、脂質の含有量が多いとエネルギー量が多くなり、また食材重量が同じの場合、脂質の含有量が多い食材ほど含まれるタンパク質量は少なくなります。エネルギー摂取量が過剰になったり、タンパク質摂取量が不足したりしないように、低脂質の食材を意識的に選択します。ただし、怪我の程度によってはエネルギー需要が高まることに加えて、運動量が減少することやモチベーションの変化によって、食欲低下がみられることもあると思います。その場合は、エネルギーバランスが負にならないように、食事の他に補食や飲料などを組み込むことなどで栄養補給計画を工夫し、急激な体重減少がみられていないか十分にモニタリングします。
もちろん1日3食の食事で、適切なエネルギーとタンパク質を確保できることが望ましいですが、食欲が低下しているときやタンパク質の不足を補うときには、プロテインやゼリー飲料も活用できると思います。
怪我による運動の制限、練習やトレーニングからの長期離脱は、身体にも心にも大きな影響を及ぼします。日々の選手サポートにおいて、怪我に直面した場合、的確な栄養補給計画の提案が、迅速な競技復帰に繋がると考えられるため、身が引き締まる思いです。タンパク質摂取は、怪我からの回復過程において、除脂肪体重の減少を最小限に抑える役割を担います。
これらの情報が、怪我による競技からの長期離脱に悩むアスリートやサポート従事者に役立つ情報になれば幸いです。
(文責)
高倉 弥希