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スポーツシーンにとどまらず、タンパク質摂取についてのトピックスは年々増え、また複雑になっていると感じています。
様々なタンパク質サプリメントが流通しており、アスリート以外にも、多くの人が活用されていると思います。トップアスリートの栄養サポートを行う我々は、パフォーマンス向上を目的に、栄養補給計画を立てて選手に提案する中で、タンパク質摂取量を確保するためや摂取タイミングに応じて、タンパク質サプリメントを使用する場合があります。計画を実行していく中で定期的にモニタリング※[1]をしますが、高タンパク質摂取が必要な際には、腹部症状の確認をこまめに行うことを意識しています。
例えば、腹痛や下痢の有無等です。これは、腸内環境への影響がある場合に、パフォーマンスに大きく関わる可能性があること、パフォーマンスだけではなく、健康上のリスクになりかねないと考えているからです。
より多くのタンパク質摂取が必要になるアスリートだけに当てはまることではなく、タンパク質サプリメントを活用する全ての人々においても、腸内環境への影響について知識を備えたうえで、タンパク質の摂取量を考えていく必要があると思います。
そこで、今回はタンパク質サプリメントの摂取について、腸内細菌叢(そう)※[2]の観点からまとめられているAnna Kårlundら(2019)が発表している論文をご紹介します。
高タンパク質摂取は一時的な体重コントロールに役立ちますが、長期的な摂取についての影響は知られていません。
腸内細菌叢を形成する要因と主な役割を下表に示します。
(文献を基に文責者作成)
※[1] 計画実施状況や状態を把握するための測定、主観等の確認をすること
※[2] 腸内フローラ、腸内に存在する微生物(細菌)によって作られた生態系
※[3] 様々な環境変化に対応して、生体の状態を一定に保つ性質
最近では、腸内細菌叢の違いによって、個別化された栄養の可能性が示されていますが、まだ効率的な栄養補給の推奨はできていません。
腸内細菌には、結腸まで到達したタンパク質をアミノ酸発酵するものが存在し、このアミノ酸発酵による代謝産物は、炎症反応等を増加させることで、全身的及び代謝的影響を及ぼす可能性があります。一方で、いくつかのアミノ酸発酵では、健康効果が報告されている短鎖脂肪酸の確保に寄与することが証明されています。
結腸に到達するタンパク質量には、摂取タンパク質総量と消化性、小腸での利用能および吸収量が関係している場合があります。また、食物繊維がアミノ酸発酵の原因となる細菌量を調節し、高タンパク質摂取の影響を弱めます。食物繊維が少ない場合には、アミノ酸発酵が引き起こされる可能性があります。これによると、高タンパク質食では高繊維食を推奨し、腸内細菌叢へのタンパク質の影響を減らすことができますが、長期的なさらなる研究が必要です。
タンパク質の吸収と代謝は、人々の年齢、健康状態などによって強く調節されており、個別化された栄養の観点から、腸での過剰なタンパク質代謝による指標(頻繁で激しい腹痛、腹部膨満感、排便の切迫感、悪臭の放散)を考慮したうえで、タンパク質摂取量を調整するべきです。腸の不快感が発生した場合、食事と栄養補助食品を変更して、腸内細菌叢のバランスをより適切にサポートし、筋肉代謝に十分なタンパク質と必須アミノ酸を提供する必要があります。バランスの取れたタンパク質摂取は、腸の健康と運動パフォーマンスの最適化の両方をサポートするはずです。
アスリートの腸内細菌叢(N = 24)に対する高タンパク質サプリメントの影響を10週間評価した小規模な研究では、細菌の多様性やアミノ酸発酵由来の代謝産物に変化は見られませんでしたが、一部の細菌群、ビフィズス菌では減少が見られました1)。対照的に、別の研究では、細菌の多様性とタンパク質の摂取量および運動能力との間に正の関連があることが示されています2)。しかし、腸内細菌叢の多様性と健康状態の関連性は明確ではなく、これらの報告のみでは一般的な結論を下すのに十分ではありません。
(文献を基に文責者作成)
まだまだ発展途上の分野ではあると思いますが、現時点におけるこれらのエビデンスから、高タンパク質摂取が腸内環境に及ぼす影響と、そのモニタリング指標を把握したうえで、摂取量を決定し、経過を十分に観察しながら取り組むことが重要だと考えます。
また、長期的な高タンパク質摂取の影響については、現時点では明確になっていないため、サポートアスリートの摂取量を検討する際にも、練習やトレーニングスケジュールを考慮して、補給計画の期間設定を行い、その時々の状況に応じた強化する栄養素を提案するようにしています。さらに、タンパク質に着眼して補給量を決めていく方法を用いたとしても、エネルギーやその他ビタミン・ミネラルの充足もパフォーマンスには欠かせないため、1日を通した全体の摂取量やバランス・摂取タイミングなども十分に確認することが大切だと思います。
アスリートに限らず、誰もが容易にタンパク質を摂取することができるタンパク質サプリメントですが、是非、これらの知識を活用して、摂取目的に合わせた適切な摂取量・タイミングを実践することで、パフォーマンス向上や健康維持増進に役立ててみてください。
(文責)
高倉 弥希
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