被災に伴い不足しがちなタンパク質や微量栄養素を摂取するポイントは??
森永製菓は、サステナビリティへの取り組みに基づき、SDGsが目指す「誰一人取り残されない」持続可能な社会の実現に向けて情報提供しています¹⁾。
当社が取り組むべき重要課題の1つに、「気候変動の緩和と適応」があります。例えば、2021年8月11日から8月27日まで全国で記録的な大雨が続きました。また、それに伴う土砂災害なども気候変動や異常気象によって起こることと思います。これらの気候変動問題に適応するために、防災グッズを用意しておく必要があるでしょう。首相官邸ホームページでは、「非常用持ち出し品チェックシート」といった避難する時に持ち運ぶリストを公表しています²⁾。非常食は、最低3日~1週間分を備蓄することが望ましいとされていますが、被災した地域のライフラインの復旧や交通整備の遅れによって、炊き出しやお弁当の配布が行き届かない可能性も考えられます。
私は、2014年と2018年に広島で起きた「広島豪雨土砂災害」のボランティア活動に参加した経験から、被災地全ての地域で食事の提供がされていないことを目の当たりにしました。人口が多く報道で紹介されている地域は、炊き出しが行われていましたが、人口が少なく交通手段が制限されていた地域は、炊き出しやお弁当の提供はありませんでした。そのような状況で、限られた調理環境と商品で食事をとられていました。実際にこのような状況が起こっていることを考えると、被災状況によっては、食事からの栄養摂取に偏りが出てくるのではないかと思います。
では、被災した中での限られた生活の中で、栄養の偏りを防止するために、最低限準備しておくべき非常用食品は何でしょうか。
そのような観点から、避難所生活におけるお弁当などの食事提供方法の有用性について解析した研究をもとに言及していきたいと思います。
Evidence
この研究では、2011年3月に発生した東日本大震災から2回に分けて面接聞き取り方式により調査を行っています(表1)。対象者は避難所で運営にあたっている避難所責任者と食事責任者等です。食事内容は、管理栄養士または栄養士が24時間思い出し法によって施設での食事提供の内容を調査し、栄養価を算出しました。その中で、今回用いた調査項目は表2の通りです。
(表1)調査日および調査人数
(文献を基に文責者作成)
(表2)調査項目および調査内容
(文献を基に文責者作成)
まず、エネルギー・栄養素の提供量についての結果です。発災から約2か月後、自治体などから弁当を提供された避難所は提供されていない避難所と比較して、エネルギーとタンパク質の提供量は高値を示しましたが、ビタミンB₁、ビタミンCの提供量は低値を示しました。発災約3か月後では、有意差は認められませんでした。(表3)
食品群別提供量については、発災から約2か月後、お弁当が提供された避難所では魚介類、油脂類が高値を示し、お弁当が提供されていない避難所では、いも類、野菜類が高値を示しました。炊き出しのある避難所では、いも類、肉類、野菜類が高値を示し、炊き出しのない避難所は、魚介類が高値を示しました。(表4)
(表3)お弁当の提供
(文献を基に文責者作成)
(表4)発災約2か月後における食品群別提供量
(文献を基に文責者作成)
以上のことから、発災約2か月後において、避難所で提供されるお弁当だけでは、エネルギー、タンパク質の提供量が多く、ビタミンB₁、ビタミンCの提供量が少ないことが明らかになりました。また、お弁当で不足する栄養素は、炊き出しの実施によって補える可能性があると示唆されました。
(文献)
三原麻実子・原田萌香・岡純・笠岡(坪山)宜代(2019)東日本大震災における弁当および炊き出しの提供とエネルギー・栄養素提供量の関連について.日本公衛誌,66,629-637
〇現場での活用方法
これまで、被災地の食事の課題は、エネルギー源であるおにぎりやパン、カップ麺が中心であることから、タンパク質や微量栄養素が不足していることでした。そのため、お弁当の提供だけではなく、炊き出しも実施することで栄養の偏りは改善されると考えられます。表4からタンパク質を多く含む肉類、魚介類の摂取量に着目すると、肉類の摂取量は炊き出しをすることで約2.5倍増え、魚介類の摂取量もお弁当の提供によって約2.5倍増えていることがわかります。
では、普段から私たちに必要なタンパク質量に対して、被災地の食事はどのくらい不足してしまうのでしょうか。日本人の食事摂取基準による身体活動レベル別に見たたんぱく質の目標量(表5)から自分に当てはまるタンパク質量を確認してみてください。
参照日:2021年10月4日
例えば、30~49歳の男性で身体活動レベルⅡの数値を見てみると、タンパク質摂取の目標量が88~135gとなっています。それに対し、表3の発災から約2か月後のお弁当の提供なしの摂取量は52.9g、お弁当ありの摂取量は、61.6gとなっています。また、タンパク質源となる食品に多く含まれるビタミンB₁が不足していることから、お弁当の提供や炊き出しがない状況を見据えて、タンパク質源となる非常食を用意することが大切です。その他、ビタミンCを多く含む食品や緑黄色野菜を摂取できる商品も揃えておきましょう。
以上を踏まえて、不足しがちなタンパク質や微量栄養素を補うための非常食の選び方のポイントをお伝えします。
まず、タンパク質の量を確保するために、タンパク質と炭水化物、タンパク質と緑黄色野菜の組み合わせの食品を選ぶ方法があります。特に豚肉や豆類は、ビタミンB₁を多く含んでいるため、豚汁や豆ごはん、豚丼などがおすすめです。
また、表4から魚介類の摂取量を見てみると、お弁当ありの場合はお弁当なしと比較して約2.5倍増加しています。そのため、お弁当がない状況を想定して、鯖缶やイワシ缶などを多めに買い置きしておきましょう。緑黄色野菜を摂るためには、かぼちゃの煮物や野菜ジュースなどがあります。最後にいも類はビタミンCを多く含んでいるため、肉じゃがや干し芋などの食品も備蓄しておくことがおすすめです。
ここまで非常食で準備しておきたいポイントをお伝えしましたが、日頃から食べ慣れていることも大切です。また、非常用食品の賞味期限や消費期限切れを防ぐことで、フードロス削減にも繋がります。そのため、「ローリングストック」といった日常的に非常食を食べて、食べたら買い足すというような環境を作ることも重要です。調理時間を短縮したいときや野菜をとる頻度が少ない場合等に非常用食品を使用してみてください。
被災地における健康被害を予防するためには、まずは自分でできることから実践することが重要だと思います。その一助けとなるために、今後も森永製菓グループのサステナブルな取り組みの1つである栄養面から、皆様へ心と体の健康に繋がる情報発信をしていきます。
(参考文献)
2)災害に対するご家庭での備え~これだけは準備しておこう! 首相官邸:2021年10月4日参照
(文責)
吉本 寛那