タンパク質を含む食品は、数多く販売されており、バータイプや粉末タイプ、ドリンクタイプ、鶏肉や魚を加工したものなど、様々な形状と原材料からできています。適切なタンパク質量を摂取することは、アスリートや一般の方にとっても重要で、適宜サプリメントを活用している方もおられます。その摂取タイミングや摂取量については、多くの検討がなされていると感じますが、同じようにタンパク質量を摂っていても、食材の違いによって、体内での吸収や利用が異なるのではないかと疑問を持ちました。そこで、今回は摂取するタンパク質源の違いから運動後の吸収や筋タンパク質合成が異なるかについて検討されているNicholas A Burdら(2015)の文献をご紹介します。
対象者は、1年以上の期間、週に2回以上の運動を行っている、健康な12名の男性(年齢:22±1歳、体重:74±3㎏、体脂肪率:13±1%、BMI:22±0.4㎏/m2)です。牛乳摂取と牛肉摂取を、一人の被験者が8~20日ウォッシュアウト※1期間を設けたうえで、2回の実験を行うクロスオーバーデザインで実施されました。実験前の2日間は、2回の試験で同様の食事となるように被験者それぞれが調整し、実験前日の夕食のみ、全員同じ組成の食事を提供されました。実験当日は8時に集合し、レッグプレスとニーエクステンションを8~10回×4セットを行い、その後それぞれの試験食(表1)を摂取しました。血液検査はベースライン※2と、試験食摂取後決められた時間ごとに測定し、筋バイオプシー※3は、ベースラインと、試験食摂取後2時間と5時間で測定しました。
筋タンパク質合成速度の結果は、運動後に牛乳摂取と牛肉摂取でともに増加しました。さらに牛乳摂取では、牛肉摂取と比較して、運動2時間後までの筋タンパク質合成速度が有意に増加しました(図1)。これは、牛乳摂取でのみインスリン上昇がみられることが影響している可能性があります。
図1 筋タンパク質合成速度
結論として、運動後に牛乳または牛肉から30gのタンパク質を摂取することは、筋タンパク質合成速度が増加します。さらに、牛乳摂取では、牛肉摂取と比較して、運動2時間後までの筋タンパク質合成速度が増加します。
※1ウォッシュアウト・・・2回目の実験に、1回目の実験の影響が出ないよう、2回の実験の間に一定の期間を設けること
※2ベースライン・・・試験食摂取前に測定する、実験の基準となる値のこと
※3筋バイオプシー・・・筋組織から小切片を採取し、その組織片のデータをとること
今回紹介した文献では、液体の牛乳と、固形(ミンチ)の牛肉という違いがありました。また、試験食の栄養成分も、炭水化物や脂質の量が異なり、その分エネルギー量にも違いがあります。その違いが、吸収時間や筋タンパク質合成速度に影響を与えている可能性も考えられますが、実際の食事で考えた場合には、牛乳のように液体で摂るものもあれば、牛肉のように固形で摂るものもあると思います。様々な要因を理解した上で、実際の活用を検討する必要があると考えます。
(実際の事例)
タンパク質は食事から摂取する必要がありますが、アスリートや運動習慣のある方は、エネルギーの必要量が増え、さらにタンパク質の必要量も増えます。手軽にタンパク質を摂取できる粉末タイプのプロテインが必要な場合もあると思いますが、基本的には、食事から必要なタンパク質量を摂ることが重要であると考えています。アスリートの食生活を今回の文献を参考に振り返ると、一つの事例が思い当たったのでその内容をご紹介します。
あるアスリートは、練習後にカフェラテを飲んで少し落ち着いてから帰宅されます。また、休憩時間などにカフェに行かれる方もいます。そのような場面では、練習後比較的早いタイミングでカフェラテを飲むことで牛乳を摂取しており、運動後の筋タンパク質合成によい働きがあるかもしれません。
また、午後や夕方の練習後は、外食となれば焼肉に行かれる人も見受けられます。その場合は、比較的脂質の少ないハラミやヒレなどを選んで食べることで、運動後の筋タンパク質合成に必要なタンパク質を摂ることができると考えられます。
このように考えると、休息のためのカフェラテや日頃の食事が、トレーニングや練習に役立っていることが見えやすく、食事に対してよりポジティブに取り組みやすいのではないかと思います。しかし、何事も極端に行うことは、結果的に全体のバランスを崩す可能性もあるため、その点を考慮したうえで、食事を選択していただきたいと思います。
アスリートは、パフォーマンスを高めるために、常に努力を続けておられます。それは、練習やトレーニングをするだけではなく、日頃の食事や睡眠、全体のスケジュールも計画的に考えています。アスリートの中には、自身の意思とはそぐわなくても、日頃から良いとされているものしか食べないように気を付けたり、無理にでも食べたり、食べなかったりする方がいる事実も伺います。しかし、私は、食事や睡眠などリカバリーの時間は、できる限りリラックスして、そして選手自身がおいしいと思えるものを食べていただきたいと思っています。選手自身がリラックスしたり、楽しんだりする時間や行動をやめる(やめさせる)のではなく、その中での意味や必要性を考えることもアスリートが長く競技を続けていくうえで重要だと思います。スポーツ栄養士として、栄養価だけに囚われず、アスリートが心身ともに健康で、そして競技力を向上することができるよう、幅広い考え方をもって、サポートしていきたいと思います。
(文責)
三好友香