e-Sports選手の栄養サポートを行う上で、さらに効果的な栄養補給はないか検討をしていたところ、脳機能(認知能力など)に対するクレアチン摂取の影響に関する文献がありました。
クレアチンはアミノ酸の一種で、人の体内に自然に存在しています。大部分は筋肉に含まれており、一部は脳にも含まれています。無酸素運動など短時間で強度が高いトレーニング時に素早くエネルギー源となります。
また、脳機能の改善や神経への影響を調査する文献もみられます。たとえば、クレアチンの摂取が注意力の低下率を弱めたことや、一般的な知的能力と作業記憶の改善、そして認知機能の指標の改善などの報告がみられます。
したがって今回は、これらの背景を踏まえてアスリートの運動直後の認知能力に対するクレアチン補給の効果を示すLawert A.M. Piresら(2020)の論文をご紹介し、e-Sports選手の栄養サポートへの応用について検討したいと思います。
この研究は、26名の女性ムエタイアスリートを対象に、運動直後の認知能力のタスクに対するクレアチン補給の効果を決定することを目的に行われました。
実験では、3.0g/日のクレアチン一水和物とプラセボ(3.0g/日のデキストロース)のいずれかにランダム化され、28日間連続摂取しました。28日間のサプリメント摂取の前後に、対象者は10分間のウォームアップと、40分間の技術トレーニング、30分間のムエタイの徹底的なトレーニングセッションを行い、一連の運動の直後に、標準化された認知能力テストが行われました。
認知能力テストは、12種(下記の表を参照)行われました。
上記が、28日間の実験期間の前後(平均±SD)の認知能力スコア結果です。
2つのテスト(Visual Reaction TimeとGo/No Go Visual Reaction Time)において大幅に反応時間が減少し、他のタスクでもパフォーマンスが向上しました。
したがって、28日間にわたる3.0g/日のクレアチン摂取の方が処理速度(視覚反応時間と視覚的合否反応時間)と選択的注意と実行機能を改善したと考えられます。
この結果は、クレアチンサプリメントが運動の後にいくつかの認知能力に対する効果をもたらす可能性があることを示唆しています。
結論として、28日間のクレアチン摂取(3.0g/日)は、プラセボと比較して、運動後の女性ムエタイアスリートの認知能力(すなわち、処理速度と実行機能の増加)に若干のプラス効果があることが示唆されました。
(文献)
私は、上記の文献の結論がe-Sports選手にも応用できる可能性があるのではと考えました。森永製菓トレーニングラボでは、e-Sports選手のサポートも行っています。e-Sportsの競技特性として常に脳を使うことから、集中力や判断力の向上が選手の目標のひとつです。選手に日々の生活について聞くと、睡眠や食事など基本的な生活習慣の時間を除くほとんどの時間(約14時間)は、常にゲーム(競技)をしています。1日の競技時間が長く、試合以外のゲーム中でもある程度の集中力や判断力は必要であると考えると、上記の文献で調べている認知能力の向上は重要な要素の一つになると考えます。
また、サポートしているe-Sports選手は、トレーニングも定期的に行っているため、クレアチンサプリメントの摂取により、筋肉量の増加や認知能力の改善に貢献できる可能性もあるかもしれません。
しかし、留意点としては、サプリメントに頼りすぎず、3食の食事も整えるということがあげられます。サポートしているe-Sports選手は、サポート前と比較して食生活は整ってきているため、サプリメントの活用をする中でも、基本は3食の食事であることを継続的に伝えていく必要があると思います。
今回ご紹介した文献では、クレアチンの摂取が運動後のアスリートの認知能力にプラスの効果があることが報告されています。アスリートにとって、戦略や対戦相手の分析などは競技を行う上で重要な要素であり、身体だけでなく脳も使って競技をしていると言えるでしょう。そこで、身体のパフォーマンス向上とあわせて、認知能力改善にもアプローチしたい場合には、クレアチンの摂取を検討することも良いかもしれません。また、クレアチンについては、スポーツ栄養の分野では様々な研究が進んでおり、アスリートだけでなく、一般の方々でも定期的に運動やトレーニングをしている方で摂取していることが多い印象を、私は受けています。
今回はクレアチンについてお伝えしましたが、その他のサプリメントも含めて、常にアップデートされる最新の正しい情報を理解し、目的に合わせて適切にサプリメントを活用していきましょう。
(文責)
山上はるか