骨は、アスリートにとってパフォーマンスに関わる重要な身体要素だと思います。実際に、骨が関わる怪我をしてしまうことで、アスリートの練習やトレーニングの時間が削られてしまいます。そのため、怪我を予防すること、骨の健康を保つことは大切です。また、高齢者を含む一般の方々にとっても、骨粗鬆症や骨折は、日常生活に支障をきたすことから、予防と対策が重要だと思います。
栄養士としてアスリートのサポートをする中で、「エネルギーや骨に関連する栄養素(カルシウムやビタミンD、タンパク質など)の不足がないか?」については、常に意識を傾けている点ではありますが、タンパク質の必要量が多いことで、「骨への悪影響はないか?」を、きちんと整理しておきたいと思いました。
そこで今回は、Craig Saleら(2019)が報告しているアスリートにおける骨と栄養のレビュー論文から、主にタンパク質が関わる内容に着目してみました。
アスリートの骨の健康に関するポイントとして、
・ピーク骨量の90%は20歳までに達し、30歳までに骨量がピークに達すること1)2)
・加齢に伴う骨量減少を回復させる(骨の健康を改善する)ための、骨形成刺激は起こらないこと
以上2つが大きくあげられます。これらから言えることは、パフォーマンスのために骨の健康は大切な要素であり、アスリートとしての生涯の中でピーク骨量を確保し、それを維持することが重要だということです。多くの若いアスリートは、将来のリスクよりも、現在のパフォーマンスを重視しがちで、引退すると骨量や骨密度を完全に取り戻すことができるという誤解もあるようです。
骨の健康と関連のある栄養素について、下の表に示します。
(文献を基に文責者作成)
アスリートの骨と栄養は、利用可能エネルギー※、炭水化物やタンパク質、ビタミンDの摂取量と関連がある中で、骨におけるタンパク質の役割は、以下の通りです。
(文献を基に文責者作成)
※利用可能エネルギー:運動に必要なエネルギーが利用された後、成長・免疫機能・体温調節などの基本的な身体機能のために残っている量
一方で、「タンパク質の摂取量が多いと骨の健康に悪影響を与える可能性がある」と主張される報告もありますが、最終的には「骨の健康のためのタンパク質の利点と安全性」3)という信頼性の高い研究にて、最適な骨の成長と健康の維持には、十分な量のタンパク質が必要であることと、タンパク質の摂取は、骨の健康に有害である証拠はないことが証明されています。また、アスリートが骨の健康をサポートするために摂取する必要がある食品として、乳製品、魚、果物、野菜(特に緑の葉物)があげられています。これらの考え方や研究の概要、ポイントを以下の図でお示しします。
(文献を基に文責者作成)
結論として、アスリートに推奨される量のタンパク質摂取は、骨の健康に有害である可能性は低いと思われます。一方で、タンパク質の摂取量が多い期間中(体重1㎏あたり2.2g/日)は十分なカルシウム摂取量を維持することを推奨することが賢明かもしれません。
今回は、Craig Sale et al(2019)の中でも、特にタンパク質にフォーカスした内容でしたが、実際には十分なエネルギー摂取量や、その他ビタミン類の摂取量も、アスリートの骨の健康には不可欠だと結論付けられています。
また、タンパク質の摂取量が増えることによる骨への有害性はないとされていますが、食品からのカルシウム吸収量が増える事実もあるため、果物や野菜(特に緑の葉物)の摂取が重要だということを忘れてはいけないように思います。
ただタンパク質だけを過剰摂取する偏った栄養補給は、リスクを否定できないうえにアスリートにおける研究は不足していると報告されています。また、長期的な過剰摂取についての研究も不十分であると報告されているため、注意が必要です。
アスリートの骨の健康を守るための取り組みの一つとして、十分なタンパク質摂取量の確保は必要不可欠で、なおかつ悪影響のリスクは低いことが分かりました。同時に、必要なカルシウムの摂取量を満たすことも重要だということを再確認しました。
減量など競技力向上のための取り組みにおいて、推奨される(より多くの)タンパク質を十分に確保すること(参照:アスリートの減量時、タンパク質の必要量は?https://www.morinaga.co.jp/protein/dietitiancolumns/detail/?id=1&category=special)は、骨の健康維持にも役立つのではないかと考えられます。
今回紹介した文献でも述べられていましたが、現場でサポートしていて感じることとして、アスリートは将来のリスクよりも、現在のパフォーマンスを重視しがちで、引退すると骨はもとに戻るという誤解もあるように思います。森永製菓トレーニングラボがサポートするアスリートの多くは、10~20代です。冒頭の骨量ピークのことを考えると、ただ「勝つため」だけではなく、選手の生涯の健康を担っているという認識も忘れてはいけないと思い、身が引き締まる思いです。
(文責)
高倉 弥希