運動習慣のある方やアスリートは、毎日の食事や補食でタンパク質を意識して摂取する方も多いかと思います。その中で、タンパク質をたくさん摂ってもよいのか、身体への悪影響はないのか、気になる方もいるのではないでしょうか。タンパク質摂取の適正量は、体格や運動量、目的などによって個人差があります。今回は、2.2g/kgBW/d(体重1kgあたり1日の摂取量が2.2gの略)を超える高タンパク質摂取がヒトに対して及ぼす影響を示したレビュー論文(Jose Antonio,2018)をご紹介します。
高タンパク質食(>推奨量)は、ある特定の条件下で人体に有害である可能性が複数の研究から示されていますが1)2)、健康で日常的に運動(トレーニング)を行うヒトに有害である根拠は欠けています。
この文献では、2.2g/kgBW/dを超える摂取量を高タンパク質食と定義している論文を調べることを目的としています。トレーニングを日常的に行っているヒトを対象とした研究では、高タンパク質群と低タンパク質(コントロール)群に分けた場合、高タンパク質群において除脂肪体重の増加と脂肪量の減少が有意である報告が多く、表(一部抜粋)のようにまとめられます。
表 高タンパク質食による体組成や内臓機能への影響
(文献を参考に文責者作成)
結論として、運動(トレーニング)を日常的に行うヒトにおいて、2.2g/kgBW/d以上の高タンパク質摂取は、体組成、運動パフォーマンス、健康に関連する害を示す根拠はないと考えられることが報告されています。
この論文では、アスリート(または運動を日常的に行う人)において、高タンパク質食(今回の論文では2.2g/kgBW/d以上)は、身体やパフォーマンスに害をもたらさないことが報告されています。しかし、留意すべきことは、タンパク質を摂れば摂るほど良い影響(筋合成促進など)があるということではない点です。タンパク質を摂取するタイミングや体内の状況によって、合成に使われるタンパク質量は異なります。必要以上に摂取すると、肝臓での代謝量が増えることで負担がかかる可能性や、脂肪として蓄えられる量が多くなることも考えられます。
また、現時点では健康であっても、過剰摂取を長期間(1年以上など)習慣化してしまうことで、内臓機能に影響を及ぼす可能性も考えられますので、血液検査などで定期的にモニタリングすることも必要と考えられます。
森永製菓トレーニングラボでサポートしているプロ野球選手(投手)は、オフシーズンの自主トレーニング期間中に除脂肪体重の増量に取り組んでいます。トレーニングの頻度も高く、日々の消費エネルギー量が多いため、栄養補給も徹底しています。
一方で、選手によって栄養に関する知識に個人差があることと感じています。例えば、ある選手から「プロテインの飲みすぎは良くないですか?」と質問を受けたことがありました。ベテランの選手などは、常に考えてプロテインや食事に向き合っている選手が多い中で、若手の選手や栄養指導経験のない選手には、このような質問内容からも基礎的な知識を指導することは重要だと私自身再認識しました。
また、ある若手の選手からは、「のどが乾いたらプロテインを飲む」という話もあり、極端な量をむやみに摂取することは、過剰なタンパク質摂取量となり、良い影響は少ないと考えられます。その選手には、水分補給には水やスポーツドリンクを飲み、トレーニング後や就寝前の補食としてプロテインを摂取するように指導をしました。私が良い影響は少ないと考えた理由としては、上記のような論文(Jose Antonio,2018)も踏まえた上で、
①プロテインを飲みすぎることで満腹感が増して食事からの栄養補給が不十分になってしまう可能性
②タンパク質を消化吸収することに多くのエネルギーを使われてしまうこと
③腸内環境の悪化
などになります。
これらを踏まえて、1日を通して、どのようにタンパク質を補給するのか、わかりやすく図示したものが以下になります。摂取量は、個人にあった適切な量を摂取しましょう。
図 1日のタンパク質摂取イメージ
Jose Antonio(2018)では、「高タンパク質食は、身体やパフォーマンスに害をもたらさない」ことが報告されていますが、単に多くのタンパク質を摂取すれば良いのではないということを忘れず、選手や補給する自身の目的、体組成や内臓機能に及ぼす影響を考慮しながら、適切な摂取量やタイミングを決めることが重要ではないでしょうか。
(文責)
山上はるか