
本コラムは、森永製菓inトレーニングラボにおける栄養サポートの一部を、情報提供を目的として紹介いたします。
アスリートは、試合にむけて日々トレーニングや練習に励み、食事や休養にも気を配って万全の準備をしていると思います。一方で、1日がかりで行われるトーナメント形式の競技では、初戦から決勝まで何度も心身のピークを合わせる必要があり、調整が難しいと感じるアスリートもいるのではないでしょうか。
私がサポートしている柔道A選手も、大会初戦に調子が上がらないこと、そして決勝で気持ちのピークを合わせられないことがあるという課題を抱えていました。この課題に対して、エルゴジェニックエイドであるカフェインがコンディショニングの工夫の一つになり得るのではないかと考え、カフェインの活用を検討しました。
本コラムでは国際スポーツ栄養学会の声明(Guest et al., 2021)をもとに、カフェインの推奨事項と作用機序を整理し、エビデンスを踏まえたA選手へのカフェインの戦略的アプローチをご紹介します。
カフェインのエルゴジェニック効果(パフォーマンス向上効果)のメカニズムとして最も有力なのは、アデノシン受容体への拮抗作用による中枢神経系の刺激です。これにより、神経伝達物質(ドーパミンなど)の放出が促され、覚醒度、集中力、注意力の向上といった効果をもたらします。また、筋原線維のカルシウム利用能の増加などもメカニズムの一部として考えられています。 特に低用量(体重1kgあたり1~3mg)の摂取でも、中枢神経系に作用し、覚醒度や気分の改善をもたらす可能性が示されています。
客観的睡眠測定や、実験室環境下での脳波検査により、カフェインが睡眠の質(眠りにつくまでの時間、中途覚醒時間、睡眠効率、総睡眠時間など)に悪影響を及ぼすことが示されています。
悪影響の発生率はカフェインを摂取する時間帯に左右される可能性があり、これはカフェインの半減期(個人差はあるものの一般的に4~6時間程度)の影響だと考えられています。そのため、アスリートは可能な限り日中のカフェイン摂取を検討すべきです。
(文献)
柔道の国際大会は、初戦が10時頃、決勝が18時頃開始と1日がかりのトーナメント形式で行われます。私がサポートしているA選手は①初戦でカラダの動かしにくさを感じることがある、②決勝で気持ちのピークを合わせられないことがある、という2つの課題を抱えていました。
選手へのヒアリングの結果、初戦の不調は単なるウォーミングアップ不足ではなく、午前中に意識の切り替えがしづらい感覚があること、そして決勝では1日を通した疲労感があるため、気分面への配慮が必要だと考えました。そこで、エビデンスにあるカフェインを戦略的に導入することにしました。
カフェイン補給のタイミングには、「運動前にとる」、「運動中に分散してとる」、「活動時間の終盤にとる」など様々な手法があり、競技特性や個人の嗜好・感受性によってその選手に適したプロトコルは変わります1)。 A選手にエビデンスと同等の量をあてはめると、初戦前にカフェインを体重1kgあたり3~6mgとることになります。しかし、初戦前にカフェインを多量にとることで、決勝までに効果が切れてコンディションの変化を感じるリスクが懸念されました。
また、エビデンス内では低用量(体重1kgあたり1~3mg)でも覚醒に関する感覚の変化がみられるとされ、個人差は大きいです。A選手は低用量でも変化を感じ、1日を通しての疲労感や睡眠への大きな影響はないことを確認しました。そこで初戦前は朝の準備の一環として、決勝前はコンディションの維持を目的に、初戦と決勝前にそれぞれ体重1kgあたり1.2mgを補給するプロトコルとしました。
これまで、A選手は80mgのカフェインを含む250mLのエナジードリンクを、特にタイミングを決めず1日かけて1本飲んでおり、1回あたりのカフェイン量が不足していることが考えられました。また、このエナジードリンクを短時間で飲み干すと、水分量が多くなり、試合中の違和感につながるため避けたいという要望がありました。
そこで、液体ではなく、小容量・高エネルギーでカフェインを含むエナジージェルを活用することで、カフェインの補給量を確保しながら負担に配慮する方針をとりました。
このプロトコルを2部練習の日に試し、午前中の反応や夕方のコンディション、睡眠に問題がないことを確認したうえで、試合当日の計画を以下のように提案しました(図1)。
試合後、A選手からは、試合当日のコンディションについて前向きな感想が得られました。客観的に見ても初戦の入り方に変化がみられ、全試合を通して試合への意識を保ちやすい様子がみられました。
今回はエビデンスをベースにしつつ、現場の状況に合わせてカフェインを活用した事例をご紹介しました。本サポートでは試合にフォーカスした栄養補給戦略としましたが、過剰摂取や夕方以降の摂取タイミングには注意が必要です。
また、カフェインへの反応は個人差が大きいため、競技特性だけでなく、選手一人ひとりに合った量やタイミングを見つけることが重要です。カフェイン摂取については、体調や競技特性を踏まえ、専門家と相談のうえ慎重に検討することが重要です。
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の商品・サービスの販売や推奨を目的とするものではありません。
(参考)
Australian Institute of Sports (AIS). Caffeine. Available online: https://www.ais.gov.au/nutrition/supplements/group_a#caffeine(参照日:2025年12月25日).
(文責)
山縣 美紗