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僕と楽しみたいならもちろん ON だよね?

ーーある日のこと
自宅に帰る途中、
刑事さんに呼び止められた
“怪盗クレープ……?”
岡喜刑事
いかにも。
その名を名乗る悪党が、この近辺に
潜んでいるという情報がありましてね
岡喜刑事
万が一、
怪しい男に出会うようなことがあれば、
すぐに通報をお願いします
岡喜刑事
何より……
ヤツの甘い言葉には、十分にご注意を!
は、はい……
(「怪盗」なんて、そんな人、
本当にこのあたりにいるのかな?)
その時。
ビュウッ!

突然、冷たい風が
吹いたかと思うと……
???
やあ、可愛いお嬢さん
あなたは……?
(さっきまで、誰もいなかった
はずだよね……!?)
愛川温
僕の名前は愛川温(あいかわつつむ)。
通りすがりのクレープ好きさ
愛川温
実は今、カタくてしつこい男に
追われていてね
愛川温
かくまってくれる、
優しいお嬢さんを探しているんだ。
そう、君のような、ね
愛川温
(ささやき)……
初対面でこんなことを言うのは
おかしいかもしれない。だけど……
愛川温
君の家の冷凍庫に、入らせて
くれないか?
えっ……
うちの冷凍庫でよかったら……
愛川温
ありがとう。思ったとおり、
君は素敵なお嬢さんだ
彼を家に連れて帰った私
すると彼は冷凍庫を開けて、
大量のバニラアイスを
しまい始めた
そのバニラアイスは?
愛川温
僕の商売道具さ。僕はね、
けっこう前から、“クレープ屋さん”
なんだ
愛川温
お嬢さん。世の中にはね、
悪いことをして私腹を肥やしている
人間がごまんといる
愛川温
僕はそんなヤツらから財産を
拝借して、代わりに、たくさんの人を
笑顔にしたいだけなんだ
愛川温
僕が作るクレープでね
クレープ……
(もしかして、この人……
刑事さんが言っていた、「怪盗クレープ」
なんじゃ?)
愛川温
僕のことを怪しいと思うなら、
いつでも警察に連絡していい。
君に迷惑はかけたくないからね
愛川温
だけど、もし
僕を信じてくれるなら……
愛川温
(ささやき)君の心を、
僕の甘いマントで包み込んであげる。
そう、真っ白なバニラのように、
純粋な君の心を
――彼に包み込まれることを
選んでしまった私
この時から、
彼と私の甘い日々が始まった
愛川温
さ。2人の合言葉を練習するよ。
ザクザク楽しい?
もちもち美味しい!
愛川温
ふふっ。よくできました
(よくわからないけど、楽しいなぁ)
彼は毎日、
大量のバニラアイスや、
チョコクランチを仕入れてきては、
私の冷凍庫をパンパンにする

だけどそれ以外は
とっても優しくて……
謎だらけの、素敵な人
いつまでもこんな日々が続けばいいのに
愛川温
続くさ。君が望めばね。
さあ、今日もクレープを焼いてあげる。
たくさん包んで欲しいだろ?
うん……ホットプレート出すね
岡喜刑事
突然失礼。森永署の岡喜です
岡喜刑事
最近、あなたの部屋から
連日甘い匂いがするという情報が
入ってきましてね
岡喜刑事
まさかとは思いますが、ご婦人。
あなた怪盗クレープをかくまって
いませんか?
(ど、どうしよう……!)
岡喜刑事
ヤツは危険です。若く見えても
本当は55を過ぎてる
えっ? どういうこと?
岡喜刑事
……まさか、
そこで聞いているのか、愛川?
罪のない女性を巻き込むな!
岡喜刑事の言葉に
戸惑ってしまうそんな私を、
彼はそっと後ろから
抱きしめたーー
愛川温
(ささやき)……いい子だ。
その電話を切りなさい
愛川温
僕のクレープバックハグで、
甘くとろけてしまうといい
私は電話を切った
愛川温
ふふ。警察の電話を切っちゃうなんて。
これで君も、悪い子だね
でも怖いよ……
私、本当にあなたを信じていいの?
愛川温
信じてくれ。世界を敵に回しても、
君の心だけは、他の誰にも盗ませない
あっ……唇がもちもち……
――甘く危ない
幸せに溺れる私だけど、
「その日」はついにやって来た
岡喜刑事
警察です!やはり、あなたがヤツを
かくまっていることは明らかだ!
今すぐここを開けなさい!
愛川温
さすがは岡喜。
この部屋まで来るなんて、
しつこさと噛みごたえは天下一品だね
愛川さん。
あなたは、やっぱり……!
愛川温
(切なげに)……ふ。ここまでだ。
もう、これ以上君を巻き込めない
怪盗クレープ
この名を名乗るのは初めてだね。
僕の正体は、『怪盗クレープ』。
岡喜の言う通り、世界中で盗みを
働いては、姿をくらます大悪党さ
怪盗クレープ
だましていてごめん
ううん。うすうす分かってた
怪盗クレープ
僕はたしかに指名手配犯だ。
だけど、いつか君に話したことは
本当だよ
悪い人からしか盗まない。
そしてあなたの作るクレープで、
たくさんの人を笑顔にする……
怪盗クレープ
ああ。君がそれを信じていて
くれれば十分だ。さ、お別れだよ
怪盗クレープ
(ささやく)……ありがとう。 
55年の人生で、君と出会えたことは、
一番の宝物だ
そんな……!
マントをなびかせ、
ベランダから
飛び立とうとする彼。

飛べるの?
そして、叩かれ続ける玄関のドア

私はーー
ベランダから空に
飛び立とうとする彼
私はエアコンの室外機に登って、
そんな彼に抱きついた
待って……!
私も連れて行って!
あなたが悪い人でもかまわない。
だってその甘さに、やみつきに
なっちゃったんだもの……!
怪盗クレープ
お嬢さん……!
彼は、私をギュッと抱きしめた
怪盗クレープ
ふふっ。可愛い人だ。
バニラより真っ白なそのハート……
もう、誰にも渡したくない
怪盗クレープ
さあ、つかまって
きゃっ
彼は私を包み込んで、
空高く飛び立った
怪盗クレープ
さあ。この街を離れて、
どこか遠くへ行こう!
そこで何をするの?
怪盗クレープ
決まってる。クレープを作って、
たくさんの人を笑顔にするのさ。
もちろん、いつまでも君と一緒にね
怪盗クレープ
そんな未来、ザクザク楽しいと
思わないかい?
うん! もちもち美味しい……!
ごめんなさい。うちの冷凍庫、
作り置きでいっぱいなんです
愛川温
ふふ。家庭的なんだね
――彼を
信じられなかった私は、
岡喜刑事に連絡した
岡喜刑事
捜査へのご協力、感謝します。
あなたの証言をもとに、
必ずやヤツを逮捕してみせる
岡喜刑事
……愛川。
俺から逃げられると思うなよ
愛川さん……不思議な人だったな
―彼が本当に悪い人だったのか、
今はもう知るすべはない
私は高い空を見上げ、なぜか、
彼の笑顔ばかりを思い出していた―
ごめんなさい。よく知らない人に
包まれちゃ駄目だって、子どもの頃から
親に言われていて……
愛川温
いいご両親だね。大切にしてあげて
――彼を
信じられなかった私は、
岡喜刑事に連絡した
岡喜刑事
捜査へのご協力、感謝します。
あなたの証言をもとに、
必ずやヤツを逮捕してみせる
岡喜刑事
……アイツとの腐れ縁も、
ここで終わりだ
えっ?
(どういう意味だろう)
岡喜刑事
いえ、こちらの話です。
それでは失礼します
本当は少しだけ、
包まれてみたかったな……
彼の話が本当なら、
悪い人ではなかったのかも
しれない
だけどもう戻れない……

冷凍庫には、
彼が入れたバニラアイスだけが
残されていた――
電話中に抱きしめられるのは苦手なの。
電話の相手にも失礼だし……
愛川温
礼儀正しいんだね。そんな君が素敵さ
――彼を
信じられなかった私は、
すべてを岡喜刑事に話した
岡喜刑事
捜査へのご協力、感謝します。
あなたの証言をもとに、
必ずやヤツを逮捕してみせる
岡喜刑事
たとえ、元は
同窓の仲間だったとしても
えっ?
(どういう意味だろう)
岡喜刑事
いえ、こちらの話です。
それでは失礼します
電話を切ってから、
抱きしめてほしかったのに……
私は彼のすべてを
受け入れかけていた
もしもあのままとろけていたら、
どうなっていたのだろう?

ホットプレートには、
彼が焼いたクレープだけが
残されていた――
さよなら……ありがとう。
私に、クレープの美味しさを教えてくれて
怪盗クレープ
ふふ。どんな愛のささやきより、
嬉しい言葉だ
――彼を逃がした私は、
ドアを開けて岡喜刑事に対面した
岡喜刑事
やはり、あなたがかくまっていたのか。
詳しい話は署で聞かせていただきましょう。
ご安心を、悪いようにはしない
はい……
岡喜刑事
しかし、ご無事のようでよかった。
何か、ヤツに盗まれたものは
ないでしょうな?
いえ。何も
(私の、心以外は――)
その後、
私が彼に会うことはなかった
やっぱり、岡喜刑事に
つかまってしまったのだろうか?
彼のことばかり
考えて過ごしていたある日――
も、もしもし!?
怪盗クレープ
(苦しそうに)……やあ。
……くっ……、元気に、しているかい?
どうしたの? 息が苦しそう……!
怪盗クレープ
岡喜のヤツに追われていてね。
まったく、あいつは昔から、
しつこくて……ははっ、今度ばかりは、
ちょっとまずい……かも
怪盗クレープ
だから、最後に
君の声が聞きたかった
怪盗クレープ
……っ……、ありがとう。君と
過ごした日々は、最高に甘く幸せだった。
僕のことを忘れても、
クレープのことは忘れないで
怪盗クレープ
いつかまた、冷凍庫で会おう……っ
クレープさん……?
クレープさんっ……!
……彼との会話はそれっきりだ
今でも――クレープを食べる度に
考えてしまう

もし彼に抱きついていたら、
どんな未来が
見えていたのかなって……
いらっしゃいませ!
怪盗クレープ
いらっしゃいませ。
クレープとアイスが結ばれて生まれた、
『ザ・クレープ』。
お1ついかがですか?
怪盗クレープ
……ふふ。この格好も、久しぶりだ
彼と私は、遠い街で
アイスクレープを売っていた

正体を知られないため、彼は
「クレープおじさん」に
変装した姿

チョビひげも、
けっこう似合うと思う
大好評だね!
お客さん、みんなニコニコしてる
怪盗クレープ
うん。僕は、この笑顔が見たくて、
クレープを届け続けてるんだ。
だけど……
えっ?
怪盗クレープ
こっちへおいで
彼はふと私を抱き寄せると、
耳元でささやいた

口ひげがくすぐったい
怪盗クレープ
僕のクレープは、たくさんの人を笑顔にする。だけど……君のことだけは、
僕自身が笑顔にしたいんだ
怪盗クレープ
これから先も、ずっと。ね
怪盗クレープ
大好きだよ