グルタミンは、多くのスポーツサプリメントでよく目にする栄養素(アミノ酸)だと思います。そして、スポーツやトレーニングと切っても切れない関係である「疲労」との関わりについての情報が多くあるようです。グルタミンは、食事においても、様々なタンパク質源(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品)に含まれており、体内で合成される特徴がありながらも、スポーツや怪我、術後などの身体に高負荷がかかるときには、消費量・必要量が増えるとも言われています。
最近、サポートアスリートの1人から、グルタミン補給に関する相談がありました。その選手は、ロードバイクによる長距離走をトレーニングとして行い、また同時期に競技練習を高負荷で行い、疲労の抜けなさを感じており、それに対する取り組みの一つとしての相談でした。
そこで、私自身も改めてグルタミンに関する情報を整理しようと思い、今回は、運動による「疲労」と「グルタミン」に着目した、Audrey Yule Coqueiroら(2019)が発表しているレビュー論文を紹介します。
疲労は、出力と強度を維持できず、身体的及び精神的なパフォーマンス障害を引き起こすことと定義されています。その主な原因は、筋肉細胞へのプロトンの蓄積、エネルギー源(ホスホクレアチンやグリコーゲン)の枯渇、血液や組織へのアンモニアの蓄積、酸化ストレス、筋肉の損傷、セロトニンの増加やドーパミンの減少(神経伝達物質合成の変化)などが報告されています。いくつかの要因が重なり、パフォーマンスに影響する可能性があるため、どれか一つを改善したからといって、必ずしも疲労に至るまでの時間を延長できるとは限りません。
この疲労に関わるグルタミンの特性には、アンモニアの代謝への影響や、エネルギー基質となること、また抗酸化作用を持つグルタチオンの合成との関連が強いことがあげられています。各組織別に、まとめたものを以下の図にお示しします。
(文献をもとに文責者作成)
長期間のグルタミン補給(運動前・運動中・運動後いずれか)は、筋肉のグリコーゲン合成を増加させ、運動によって誘発されるアンモニアの蓄積を減少させたり、血中CKやLDHレベルなどの筋肉損傷のマーカーを弱めたりするようです。しかし、グリコーゲン合成に関しては、炭水化物またはクレアチン一水和物を含むグルタミンサプリメントによる文献が多く、同時摂取の影響が否定できず、グルタミンのみの摂取と比較したさらなる研究が必要だと考えられます。
グルタミン補給の根拠は、直接的なパフォーマンスへの影響として証明されていないものの、長時間の運動を行うアスリートにとっては、重要な要素となる可能性があります。疲労マーカーへの影響が概ね証明された文献の対象者は、エリートラグビープレーヤー1)や、2~3時間/日・5日/週・6か月間の持続的なランニングを行った中長距離ランナー2)、2000mの最大強度セッションを行ったエリートローイングアスリート3)などでした。
グルタミンの可能性は幅広いため、未だパフォーマンスに対するグルタミンのみの確固たるエビデンスは、確立されていないように思います。
一方で、私自身が、とても興味深いと感じたのは、他の栄養素(炭水化物またはクレアチン一水和物など)との組み合わせです。実際に、冒頭で紹介した選手をはじめ、多くのサポートアスリートが、運動後に常用しているリカバリーを目的としたプロテインには、炭水化物に加えてグルタミン(1.2~3g)も含まれています。しかし、多くの研究で用いられているグルタミン量(5g前後~)と比べると、やや少ない量の配合となっています。
これらのことを踏まえて、体重の減少はなくエネルギーが充足していること、サプリメントを追加することによって1日のタンパク質摂取量が過剰にならないことを確認しました。そして、競技特性と食事スタイルを考慮したうえで、グルタミン補給の強化をすることが、選手の訴える疲労に対して良い影響があるのではないかと考えました。選手からの相談に対して、前述のとおり返答し、取り組みを開始しています。
あらためて栄養補給の目的を考えたときに、「グルタミンを摂ること」ではなく、「試合で勝つ」という目標を達成するための、一要素であることが重要だと思います。身体の中で様々な役割を担うグルタミンであっても、タンパク質に変わりはないため、容易に補給できるサプリメントの手軽さもありますが、過剰摂取によるパフォーマンス低下に繋がってしまうかもしれません。
実際に活用する場合は、トレーニングや練習のスケジュールに合わせた栄養補給量や質・タイミングに配慮しつつ、基本的な身体を動かすためのエネルギーや、身体を構成している全ての組織の材料であるタンパク質、またその体内での代謝に関わる微量栄養素の充足が成されていることが必要不可欠なのではないでしょうか。そのうえで、効率的な栄養補給を実現させるためのグルタミンを含むサプリメントの活用は、日々練習に励んでいるアスリートの疲労コントロールにも一役買ってくれるのではないかと思います。
(文責)
高倉 弥希