アスリートは、日々のトレーニングや練習によって、筋肉痛がある状態でトレーニングを行うこともあります。なるべく早くリカバリーするために、休息や睡眠に加え、栄養面では、適切なエネルギーと栄養素の摂取や、トレーニング前後などのタイミングに合わせた糖質やタンパク質の摂取を行っています。その中でも分岐鎖アミノ酸(BCAA:ロイシン・イソロイシン・バリン)は、骨格筋で利用されるため、リカバリーにおいても影響があるのではないかと研究が進められています(図1)。
(文献を基に文責者作表)
そこで、今回はBCAAの補給が筋損傷や筋肉痛を軽減するかどうかについてまとめられた Khemtong Cら(2021)のレビュー論文をご紹介します。
これまで、BCAAの補給と筋損傷や筋肉痛に対する研究は多く行われており、以前のレビューでも、筋損傷、筋肉痛、疲労物質、エネルギー代謝や筋肉痛に関わる物質などに対して、BCAAの補給がポジティブな影響があるとの結果を得ています。しかし、これまでの研究は、性別や運動歴、運動の種類、その他のサプリメント摂取などを問わず、広い集団に対してのメタアナリシスでした。
そのため今回のメタアナリシスでは、トレーニングを積んだ男性アスリートで、血液中の筋損傷マーカーである乳酸脱水素酵素(LDH)とクレアチンキナーゼ(CK)、主観的筋肉痛(VASを活用)を測定している、ランダム化比較試験に絞りました。
BCAA摂取では、運動後24時間未満、24時間、48時間でCK流出が軽減し、筋肉痛(VAS)は24時間未満において軽減する可能性が明らかとなりました(図2)。LDHは、BCAA摂取の影響が現れませんでした。
(文献を基に文責者作表)
結論として、トレーニングを積んだ男性アスリートがレジスタンストレーニング後にBCAAを補給することは、筋損傷自体を防ぐ効果は見られませんが、筋損傷を早期に回復させるために効果的な戦略として利用できます。
(文献)
BCAAのサプリメントは、アスリートや運動習慣のある方にとって比較的馴染みのあるものではないかと思います。その分、数多くの研究がなされているため、ターゲットを絞ったうえでの有効性が様々な形で検証されています。研究における限界点はあるものの、普段の食事や生活を整えており、さらなるレベルアップを目指す人にとっては、BCAAのサプリメント摂取が健康なカラダの維持に影響を与えるかもしれません。
特にアスリートのオフ期は、トレーニングボリュームが増え、セッションの度に筋肉痛が起こることもあります。とはいえ、限りある時間の中で、最大限のパフォーマンスでトレーニングを行うためにリカバリーが欠かせないため、休息や睡眠、交代浴やマッサージなど、さまざまな方法を取り入れます。栄養面でも、バランスの良い食事に加えて、タイミングに合わせた栄養補給や水分補給を行いますが、その中の一つの手段として、サプリメント摂取を検討する場合があります。
実際の我々のサポートでは、食事や生活のスケジュールなども考慮した上で、その選手にとって最適な栄養補給は何かを考え、使用するサプリメントを検討しています。紹介したレビュー論文も、BCAA補給のタイミングや量は各文献によって異なっており、一概に「〇〇のタイミングに、〇gが良い」とは言い切れないため、選手一人ひとりの状況を踏まえて、適切に活用する必要があります。
BCAAの活用の例を図3に示しました。例えば、トレーニングが1セッション1時間程度の選手には、トレーニング前だけに補給しますが、2~3時間行う選手には、トレーニング前とトレーニング中にも補給してもらうなどしています。それ以外には、トレーニング前の食事量が少なくなる選手の場合は、トレーニング前にエネルギーゼリーと合わせて摂取してもらったり、食事全体のタンパク質摂取量が多い場合には、全体のタンパク質摂取量を考慮して、摂取の可否を検討したりする場合もあります。また、ホエイやカゼインを主原料としたプロテインには、必須アミノ酸が含まれているので、特定の栄養素だけを注目することなく、様々な栄養素を補える食品やサプリメントを検討することもあります。
BCAAは食事から摂る必要がある必須アミノ酸であるため、タンパク質を多く含む食品には概ね含まれており、普段の食事からも日常的に摂取しています。そのため、むやみにサプリメントに頼ることは避けるべきですが、トレーニングを積んでいる方は、普段の食事内容や、可能であれば血液検査などによる身体の状態を確認しながら、リカバリーのことを考えて、BCAAのサプリメントを活用することを検討してみてもよいかもしれません。
(文責)
三好友香