高強度運動による皮膚とタンパク質の関係は?
アスリートは試合でベストパフォーマンスを発揮するために、日々練習やトレーニングを行っています。しかし、強化合宿やオフシーズン時に高強度な運動を繰り返し行うことによって、免疫力が落ちやすくなります。その場合、体調不良のほか皮膚の感染症も一例として発症することが考えられます。それは、テーピングなどの外傷によって引き起こることや、活動する環境、用具を共有することなどによって、皮膚にかゆみや痛みを生じることなど様々です。その中でも皮膚の感染防御の1つである分泌型免疫グロブリンA(以下SIgA)が低下してしまうことが、免疫力の低下に繋がる可能性がある¹⁾と報告されています。
そこで、今回はアミノ酸であるロイシンを摂取することでSIgAの分泌に影響を及ぼす論文についてご紹介します。
Evidence
無菌の飼育室で19匹の雌マウスを3つのグループに分けて飼育し、7日間それぞれの餌(図1)と飲料水を自由に摂取できるようにした。7日後に解剖を行い、空腸と回腸を採取して、SIgAの産生に影響を与えている指標のmRNAの抽出とSIgAの量を検出した。
(文献²⁾を基に文責者作成)
結果は、1.0%ロイシンを補給すると回腸では、plgR※2とJ-chain※3のmRNA、空腸 ではJ-chainのmRNAの発現が有意に増加した。一方、0.5%ロイシン添加は、 plgRとJ-chainのmRNA発現に有意な影響を及ぼさなかった(図2)。また、1.0%ロイシンを摂取は、基礎飼料群と比較して、回腸ではSIgAのタンパク質量が有意に増加したが、空腸では影響がなかった(図3)。
(Song B et al 2020より図引用 文責者和訳)
以上のことから1.0%ロイシンを7日間投与することで、マウスの空腸及び回腸におけるSIgA産生に影響を与える可能性と、回腸におけるSIgAの産生が促進されることが示唆された。
※1)基礎飼料:2014年に発表された論文2)で使用した飼料と同量である
※2)J-chain:抗体IgMおよびIgAのタンパク質成分
※3)plgR:IgMとIgAの多量体免疫グロブリンを連結するJ-chainと結合する受容体
(文献)
Song B, Zheng C, Zha C, Hu S, Yang X, Wang L, Xiao H. Dietary leucine supplementation improves intestinal health of mice through intestinal SIgA secretion. J Appl Microbiol. 2020 Feb;128(2):574-583.
〇現場での活用方法
ロイシンは、分岐鎖アミノ酸(以下BCAA)の1つで運動後の筋損傷に影響を与える有用なアミノ酸の1つです。そのため、運動後の筋タンパク質合成を促進する作用について注目を浴びていると思います。今回は、それに加えて免疫機能の維持においてSIgAの分泌を促進する可能性も示唆されました。また、マウスを用いた実験はヒトの基礎研究であり、実際にアスリートを対象にした研究では、高強度トレーニングの期間に唾液SIgA分泌が減少した報告³⁾もあります。
私が担当している選手は、シーズンが始まると毎月試合が行われることがあります。そのため、連戦による高強度な運動が続くことで、エネルギーなどの消費量が増えることに加えて、SIgAの低下とも関連付けて摂取を促すことを検討しています。
ロイシンはアミノ酸の一種であるため、タンパク質源の食品をとることがポイントです。その中でもロイシンを多く含む食品は、動物性食品は牛肉、鶏胸肉、タラや卵に含まれ、植物性食品は納豆、きなこや高野豆腐に含まれています。強化合宿など運動による消費量が多い場合に、ロイシンを補給することで皮膚のトラブルの予防に影響を及ぼすか未知数ですが、何とかコンディショニングに繋がればと思い、計画的に補給できるように取り組み、モニタリングをしています。
(ロイシンが含まれている食材についての詳細は「日本食品標準成分表2020年版(八訂)全体版」に記載されています)
また、高強度な運動になると、消費量に見合ったエネルギー補給をすることが難しくなると捉えています。その場合は、練習後や就寝前にプロテインなどロイシンを含む栄養補助食品を使用することも視野に入れておくことも1つの手段として取り組んでいます。
今回は皮膚の感染防御であるSIgAの低下とロイシンとの関連性についてお伝えしました。アスリートはベストパフォーマンスを発揮するために、皮膚の感染症予防もされていることと思います。強化合宿や連戦が続くときは、消費エネルギー量に見合った摂取量をとりつつ、リカバリーの目的も含めて、ロイシンを多く含んだタンパク質源の食品を意識してとることも重要かもしれません。今後も現場で得られたことを情報発信していきたいと思います。
(参考文献)
1)枝伸彦; 赤間高雄. 皮膚および粘膜の感染防御機能に対する運動の影響. 2013. PhD Thesis. 早稲田大学.
2)Ren et al, Dietary Arginine Supplementation of Mice Alters the Microbial Population and Activates Intestinal Innate Immunity, The Journal of Nutrition, Volume 144, Issue 6, June 2014, Pages 988–995,
3)Fahlman MM, Engels HJ. Mucosal IgA and URTI in American college football players: a year longitudinal study. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2005 Mar;37(3):374-380.
(文責)
吉本 寛那