ベジタリアンアスリートのタンパク質摂取は?
近年、環境負荷を減らす、環境に優しいタンパク質として、植物性タンパク質が注目されていることを感じています。2021年3月に公表された第4次食育推進基本計画(1)では、「持続可能な食を支える食育の推進(社会・環境・文化の視点)」が重点事項の1つに含まれています。持続可能な開発目標(SDGs)の達成には、「食」もより密接に関係していることがこのことより伺えます。一方、アスリートは、除脂肪量と運動量が多いことから、基本的にタンパク質摂取量も食事摂取基準の推奨量より多く必要となります。そこで、アスリートが植物性食品を中心に食事を摂った場合に、必要なタンパク質やその他の栄養素が摂取できるかについて、検討することは意義があると感じたので、アスリートとスポーツ愛好家のためのヴィーガン食の実践的なアドバイスについて述べられている、Rogerson, D.(2017)の文献を中心に紹介します。
Evidence
Rogerson, D.(2017)は、植物ベースの食事が健康とパフォーマンス双方のニーズを満たすかどうかについて、スポーツ栄養領域だけではなく、疫学や健康科学など多様な領域の文献をもとに見解をまとめています。それは、スポーツ栄養領域における植物ベースの食事について、エビデンスが不足しているからです。
まず、ベジタリアンやヴィーガンなど、植物ベースの食事についての定義を下の表に示します。
表1 ベジタリアンの定義
(文献より文責者作成)
この表のように様々な種類がありますが、すべての動物性食品を食べないのはヴィーガンのみです。
一般的に、ヴィーガンの食事は、エネルギー量、タンパク質、脂質、ビタミンB12、n-3系脂肪酸、カルシウム、ヨウ素が雑食*よりも少ない傾向があります。植物ベースの食事では、炭水化物、食物繊維、微量栄養素、植物化学物質、抗酸化物質を多く摂取することができます。しかし、エネルギー量は少なくなる傾向があるため、食事の量を増加させ、ナッツ類や油など脂質の多い食材を活用するなどして、必要なエネルギー量を確保する必要があります。
次にタンパク質に着目します。国際スポーツ栄養学会では、アスリートのタンパク質摂取量を1.4~2.0g/体重kg/日、さらに減量時には1.8~2.7g/体重kg/日を推奨しています。
しかし、ヴィーガンのアスリートは、雑食やベジタリアンよりもタンパク質摂取量が少ないことが報告されています。また、植物性タンパク質は、動物性タンパク質に比べて分岐鎖アミノ酸(BCAA)が少ないことや、リシンが制限アミノ酸となる食品があるなど、アミノ酸の組成に違いがあるため、タンパク質の「質」と「量」に考慮する必要があります。そのためには、さまざまな植物ベースのタンパク質を組み合わせて摂取することが推奨されています。穀類、豆類、ナッツ類、種子類などの食品は、すべての必須アミノ酸を含むため、ヴィーガン食の場合は、それらを活用することが必要です。
その他に、植物性タンパク質は、動物性タンパク質に比べてタンパク質の消化率が低いため、ヴィーガン食の場合は、タンパク質摂取量も増やす必要があるかもしれません。その際は、エネルギー量を補いながら、タンパク質量も補っていくことが重要です。
結論として、植物ベースの食事と雑食*では、摂取できる栄養素のバランスは異なりますが、適切な食品の選択と、摂取量、さらには関連するサプリメント等を活用することで、植物ベースの食事でも、多くのアスリートのニーズを満たすことは可能と考えられます。
雑食*・・・この記事では、「動物性食品と植物性食品を満遍なく食べる食事」と定義します。
(文献)
今回着目した文献以外においても、植物ベースの食事は、アスリートのニーズを満たすことができること(2)、食事内容の違いで運動パフォーマンスに変化がないこと(3)などが示されており、植物ベースの食事で適切な量や内容を摂取することができれば、アスリートにとっても活用できる食事方法であると、私は考えました。しかし、限界点としては、エリートアスリートに対して行われた研究が少ないことが挙げられているため、その点を踏まえたうえで活用する必要があると思います。また、鉄必要量の多い女性や、成長期の年代においては、特定の栄養素の不足の可能性も言及されているため、その点についても配慮が必要だと思います。
実際のサポート現場では、飽和脂肪酸の多い肉類を摂取しないペスコベジタリアンの食事を指導したことがあります。その際の食事では、下記のような内容で調整し、選手の体重、体調やパフォーマンス、疲労感やストレスなどを記録しながら行いました。
表2 食事内容の例
体に大きな変化が起こることはありませんでしたが、悪影響が出ることもなく、選手の食嗜好とも合致しているため、ストレスを強く感じることなく実施できました。
上記の事例では、オートミールや豆類を活用していますが、これらは植物性食品のうち、タンパク質が比較的多く含まれる食品です。下記に、植物性食品でタンパク質を多く含む食品を示します。重量はすべて100gあたりとなっているので、実際の摂取量と合わせて検討してください。
(重量100g当たりの栄養素)
植物ベースの食事を実践する際には、「どのような目的か」を明確にする必要があると思います。むやみに動物性食品の摂取を控えることで、アスリートにとって必要なエネルギー量や栄養素が不足し、競技に悪影響が出る可能性も懸念されるためです。植物ベースの食事では、不足しがちな栄養素を補うために、サプリメントなどを活用することもあるため、適切な指導やアドバイスのもとで、実施していただきたいと思います。
今後、ますます環境負荷を考慮し、持続可能な社会に向けた食事の在り方が問われてくると思いますが、それに伴って関わる私たちスポーツ栄養士の役割も変化してくると思います。その変化に柔軟に対応できるよう、様々な情報を正しく理解し、必要性を理解して実践していけるサポートを行っていきたいと思います。
(1)農林水産省.第4次食育推進基本計画.(2021):2021年5月19日参照
(文責)
三好友香