人気ブログ「真顔日記」の上田啓太が贈る「グミ恋愛物語」

グミって言ってたのに・・・グミじゃないじゃん!!

もうグミとの恋愛では幸せになれない…と思っていた「私」。
私にとって大事なのはなに?一緒にいて幸せなのは誰!?
3人のグミ男子に揺れるグミ好きOLのラブストーリー、という壮大な妄想のお話。

 森永製菓が新しくグミを出すらしい。

「ひとつぶくだものグミ」というそうだ。

 それで私のところに広告記事の依頼が来たんだが、正直、私に言われても困る。私は30すぎの男である。日常的にグミを食べなくなって久しい。どちらかといえば、酒を飲みながら柿ピーを食べている。そんな男にグミと言われても困る。

 そりゃたしかに、子供の頃はグミが好きだった。果汁系のグミは定番だったし、パウダー系のグミだって好きだった。遠足のおやつに一袋は入れていた。しかし年を取るにつれて食べなくなった。グミのことを嫌いになったわけじゃないのに。

 このへんのニュアンスを説明するのはむずかしい。嫌いになったわけじゃないのに、食べなくなった。はじける果汁に、すこしの重たさを感じるようになった。たぶんグミが変わったんじゃなく、私が変わったんだろう。

 私は大人になった。

 しかしグミは、グミのままだった。

 恋愛に例えると分かりやすいかもしれない。

 私にとって、果汁たっぷりのグミは幼なじみの男の子だ。名前を付けるならば「グミ彦くん」という感じで、小学校、中学校とクラスの人気者だったのだけれど、高校生になっても変わらずに能天気なまま、そして20代になっても、悩みひとつなく元気いっぱいの人なのだ。

 そして私は、そんなグミ彦くんに徐々に愛想を尽かしはじめた20代のOLなのである(実際は30すぎの男なんだが)。

 いつまでも子供っぽいグミ彦くんと付き合いながら、大人になった私は自分の気持ちが離れていくのをごまかせない。グミ彦くんは会うたびに小学校の頃の話をする。あの時のイモ掘り遠足は楽しかったとか、緑地公園でおまえが池に落ちたとか、それは同窓会なら楽しいのかもしれないけれど、グミ彦くんは普段の話題がそうなのだ。

 私がまじめな話をしても子供みたいな茶々をいれてくるし、「少しは大人になってよ!」と言っても伝わる様子はなく、グミ彦くんは面白い動きをして「がんばらねば~!」と言うだけなのだ。

 私たちは、幼稚園から仲良くやってきた。このまま結婚できればいいなと思ったこともある。でももう、限界なのだ。デートの時だってそうだ。グミ彦くんは二人で駄菓子屋をめぐろうとする。それをむりやり引っ張って、静かなカフェに連れていく。なのにグミ彦くんは店内の棚を見るなり、大きな声でさけぶのだ。

「おっ、水筒がたくさんあるぞ!」

「タンブラーだよ……!」

 私は顔を赤くして、とうとうグミ彦くんと別れることを決意するのだ。

 そんな私のところに、二人目のグミがあらわれる。

 彼は年上の刺激的な男、「パウダーさん」とでも呼びたくなる存在で、その物腰は洗練されており、ドキッとするようなキザなことも言う。もちろんグミ彦くんのような幼さはなく、その口説きかたは大人っぽくてとても素敵なのだ。

 しかしパウダーさんには重大な欠点がある。

 いつも全身が粉まみれなのだ。

「すてきな服だね、きみによく似合ってる」

 だからそんなふうに言われても、全身粉まみれの奴にファッションの何がわかるんだと思ってしまうし、彼が落ち着いた口調で話すほど、全身粉まみれであることとのギャップが際立って、話に集中できなくなるのだ。なのにパウダーさんは私の内心も知らず、まじめな顔で政治を語り、ニュースを見れば突き刺すような声でクールに言うのだ。

「この政治家は駄目だよ。献金まみれだからね」

 あんたなんか、粉まみれじゃない……。

 その一言を押し殺して、私は必死で愛想笑いをする。プライドが高く、欠点を指摘しづらい男。それなのに、全身粉まみれの男。それがパウダーさんという人で、私は彼に口説かれながらも、どうしても好きになることができず、やがて連絡を取るのをやめてしまうのだ。

 そんな時だったのだ。

 私が「ひとつぶくだものグミ」と出会ったのは。

 彼は優しい人だった。同時に、謎めいた人だった。私は彼に自然な好意を持つことができた。それは彼も同じだったと思う。お互いにひかれあっている。それはたしかだった。でも私は彼を最後のところで信頼することができなかった。彼は何か肝心なことを隠していたからだ。

 何度かデートを重ねたが、私たちの関係は進展しなかった。結局、この人ともうまくいかないのかもしれない。そう思うと悲しかった。そんなある夜のことだった。私とひとつぶくだものグミは二人で映画を観たあと、レストランで夕食をとり、駅近くの小さな公園に寄った。彼は私の肩を抱こうとした。反射的に、私はその手を振りほどいていた。

「ねえ、何を隠してるの?」

 この言葉を口にすると、もう心地よい関係には戻れないと知っていた。でも私は肝心なことを知らないままでいるのは嫌だった。彼は困ったような顔をした。私は真剣な顔で彼を見つめた。水銀灯が私たちを照らしていた。

「あなたの秘密を教えてほしい」と私は言った。

「私は、あなたと真剣に付き合っていきたい。そのためにあなたの秘密を知りたいと思う。私のことを信用できないのなら、それなら、そう言ってほしい。悲しいけれど、あなたがそう言うのなら、これで終わりにする。もう会わない。私は心地よい関係のままは嫌だから」

 彼はしばらく沈黙していたが、やがて覚悟を決めたように言った。

「むかし、グミ目当ての女がいたんだ」

 そして彼は語り出した。その声はふるえていた。

「正直に話すよ。僕はたしかにグミだ。でも普通のグミじゃない。僕はグミであると同時に、くだものでもあるんだ。僕の身体のなかには一粒のくだものがある。シャキシャキのパイナップルの果肉だよ。だから普通のグミとは言えない。すごく変わってるんだ」

 彼は大きく息を吐き、話を続けた。

「むかし、一人の女性と付き合ってたんだ。僕の最初の恋人で、今のところ、最後の恋人だよ。最初は彼女から親しげに話しかけてきたんだ。いま思えば、なれなれしいほどだったかもしれない。でも僕は若かった。何も知らなかった。すぐ彼女に夢中になったよ。そして彼女に秘密をうちあけた。ほとんど無垢な子供のように自然にね。

『僕さ、普通のグミに見えるけど、中にくだものがあるんだよ!』

 ……彼女の反応は冷たいものだったよ。彼女はべつに僕という個人を愛していたわけではなかったんだ。後から知ったよ。彼女は女友だちに自慢していたらしいんだ。『あたしの彼氏、グミなのよ』ってね。彼女はグミと付き合っている自分が好きなだけだった。『グミの彼女』というステータスを求めていただけだった。そんな彼女にとって、僕のなかにあるくだものは、わけのわからない異物でしかなかったんだ。

 彼女は去っていったよ。友人たちは言った。おまえは悪い女につかまっただけだって。あいつはあちこちでグミの来る合コンに行ってたんだって。でも僕は本当に彼女のことが好きだった。なのに彼女はそうじゃなかった。ただのグミ目当てだった。だから僕は怖いんだ。また誰かを好きになって、夢中になって、僕の秘密を打ち明けて、あの時みたいに拒絶されることが――」

「私はちがう!」

 反射的に、私は言っていた。公園に声がひびいた。

「……私はちがう。私はグミ目当ての女じゃない。私はあなたがグミだからひかれてるわけじゃない。あなたの中にくだものがあるなら、私はそのくだものまで含めて愛したいと思うよ。もちろん私だって完璧な人間じゃない。色々とバカなこともしてきた。でも今は、ちゃんとあなたと付き合いたいと思ってる。だから私をそんな変な人といっしょにしないで。別の人を私に重ねないで!」

 しばらく二人とも何も言わなかった。

「君を抱きしめていいかな」と彼は言った。

「グミのなかにくだものがある、一人の男として」

 私はうなずいた。

 夜の公園で、私たちは静かに抱き合った。

 やがて私たちは、耳元でささやくように会話をはじめた。恋人にしかできない距離で。

「シャキシャキなんでしょ?」

「うん、シャキシャキなんだ……」

「パイナップル……?」

「ああ、シャキシャキのパイナップルの果肉入りだよ」

「グミなのに……?」

「うん、グミなのに、グミじゃないんだ」

「すごいね」

「すごいよ。僕はグミなのに、本物のくだもののようなシャキシャキの食感を、みなさんに楽しんでもらえるんだから……」

 私はくすくす笑った。

「なんだか、広告の一文みたい」

 彼は笑った。

「だってこれ、広告だもの」

 *

 以上です。

 そういえば、広告記事でした。なんとか思い出すことができてよかったです。

 あとは、書いてるのが30すぎの男だという現実を思い出すだけですね。

著者/上田啓太

京都在住のWEBライター
石川県出身。京都大学工学部卒。20代後半を女性宅の居候として過ごす。
ブログ『真顔日記』で、aikoや女性の恋愛妄想を中心とした記事が人気を博す。

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