研究成果 べにふうき

1.お茶の効能

緑茶(Camellia sinensis L. )は、日本や中国などで古来より飲用されてきましたが、緑茶の主要成分である茶カテキンの様々な生理機能が近年の研究によって明らかにされるにしたがって、広く世界中で飲用されるようになってきています。
緑茶に含まれる茶カテキンには、最も多く含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)の他、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキンなどが含まれます。これらの茶カテキンには、抗アレルギー作用や抗肥満作用、血圧低下作用などの保健効果があることが報告されていますが、成分の種類によって生理機能に違いがあることも、明らかにされつつあります。

エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート

2.「べにふうき」とは?

メチル化カテキン

「べにふうき」とは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、野菜茶業研究所(元農林水産省野菜・茶業試験場)にて育成され、1993年に命名・登録された茶品種です。メチル化カテキンという、他のお茶にはあまり見られない特殊な種類の茶カテキンを多く含み、病気や虫の害に強く農薬の使用量も少なくてすむ点が特徴です。
このメチル化カテキンという成分は、森永製菓株式会社と野菜茶業研究所、九州大学との共同研究(※)により、通常の茶カテキン(EGCG)と比べて体内への吸収率が高いことや、高い抗アレルギー作用を示すことなどが明らかにされています。

※「茶の抗アレルギー作用を利用した食品の開発」プロジェクト「茶コンソーシアム」のこと。森永製菓株式会社、野菜茶業研究所、九州大学のほか、静岡県立大学、名古屋女子大学、東京海洋大学、アサヒ飲料株式会社が参加し、「べにふうき」の栽培法や商品への応用について共同研究を行いました。

3.「べにふうき」の脂肪蓄積抑制作用

緑茶の茶カテキンEGCGには、脂肪の蓄積を抑制したり、脂肪を消費しやすくしたりする作用のあることが複数の研究グループから報告されています(※)。そこで、「べにふうき」のメチル化カテキンと緑茶の茶カテキンとの抗肥満作用について比較検討しました。
その結果、「べにふうき」メチル化カテキンは、茶カテキンEGCGよりも、脂肪蓄積抑制効果が高いことが見いだされました。


Wolframら、 2005, 49, 54-63, Ann. Nutr. Metab.
Klausら、2005, 26, 615-623, Int. J. Obes.
Muraseら、2002, 26, 1459-1464, Int. J. Obes.
Haseら、2001, 50, 599-605, J. Oleo Science.
Dullooら、1999, 70, 1040-1045, Am. J. Clin. Nutr.
Meguroら、2001, 50, 593-598, J. Oleo Science.

−1 マウスでの脂肪蓄積抑制効果

実験目的と方法

2週間予備飼育した12週齢のC57BL/6J雄マウスに、①通常飼料、②高脂肪食飼料、③高脂肪食飼料に2%の「べにふうき」茶葉を混ぜた飼料、④高脂肪食飼料に2%の通常の茶葉(「やぶきた」茶葉)を混ぜた飼料を5週間与えて飼育しました。

・実験結果と考察

高脂肪食飼料を与えることにより上昇する体重、皮下および内臓脂肪組織重量、血中レプチン濃度は、通常の茶葉「やぶきた」或いは「べにふうき」茶葉を混ぜた飼料を与えることで低減しました。特に、「べにふうき」茶葉を与えた群では、その脂肪蓄積抑制効果は顕著でした。
この結果から、茶カテキンに脂肪の蓄積を抑制する働きのあることが示され、更に「べにふうき」は、メチル化カテキンを含むため一層脂肪蓄積抑制効果が高い、と考えられました。

参考文献 稲垣ら(森永製菓)、高脂肪飼料摂取マウスにおける「べにふうき」緑茶の脂肪蓄積抑制効果 2009, 56(7), 403-411, 日本食品化学工学会誌

−2 脂肪蓄積抑制の作用機序

マウスの試験で明らかとなった「べにふうき」の脂肪蓄積抑制作用のメカニズムについて、皮下や内臓脂肪組織重量の増加が抑制されていたことから、「べにふうき」のメチル化カテキンが、①脂肪細胞の中の脂肪酸合成に影響を与えていないか、②脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制していないか、③生体内で茶カテキンEGCGと比べて吸収性が高まっているか、を検討しました。

実験目的と方法

①脂肪組織中での脂肪酸合成に「べにふうき」のメチル化カテキンがどのような影響を与えているか検討するため、12週齢のC57BL/6J雄マウスを高脂肪食飼料、あるいは「べにふうき」茶葉を2%含む高脂肪食飼料で5週間飼育した後、腎周囲脂肪組織を摘出して組織中の遺伝子発現量をDNAマイクロアレイ法(※)により網羅的に測定、比較しました。

※DNAマイクロアレイ法・・・細胞や組織中で亢進あるいは抑制されている遺伝子を、一度に数千から数万種類解析するための実験手法。

②脂肪前駆細胞が脂肪細胞に分化することを「べにふうき」メチル化カテキンが抑制することを検討するため、insulinの刺激で脂肪細胞に分化することが知られているマウス脂肪前駆細胞株3T3-L1細胞を実験に用いました。茶カテキンEGCGあるいは「べにふうき」メチル化カテキンを細胞の分化を誘導する培地に加え、細胞の脂肪蓄積量をOil Red O染色法にて、分化率をNile Red染色法にて測定して茶カテキンEGCGや「べにふうき」メチル化カテキンの脂肪蓄積抑制や分化抑制の効果を比較しました。

③茶カテキンEGCGや「べにふうき」メチル化カテキンの血液中への吸収性を比較検討するため、7週齢のSDラットを一晩絶食させた後、10μmol/kgのEGCGおよびメチル化カテキンを含む「べにふうき」茶葉抽出物を経口投与しました。投与前、投与後15分、30分、60分、120分、180分後の血漿中のEGCGあるいはメチル化カテキンを測定し、これら緑茶成分の血漿中濃度を算出しました。

実験結果と考察

①DNAマイクロアレイ法により、高脂肪食飼料のみを与えたマウスと比べ、「べにふうき」メチル化カテキンを2%含む高脂肪食飼料を与えたマウスでは、脂肪合成と代謝の遺伝子であるScd2:Stearoyl-CoA desaturase 2、Acaa1:Acetyl-CoA acyltransferase 1A、Pcox:Acyl-CoA oxidase 3, pristanoyl及び脂肪前駆細胞の分化を促進するIgf-1:Insulin-like growth factor 1の発現量が有意に減少していました。 この結果から、「べにふうき」メチル化カテキンは、脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化と脂肪組織での脂肪合成を抑制すると考えられました。

②3T3-L1細胞の脂肪蓄積に及ぼす茶カテキンEGCGと「べにふうき」メチル化カテキンの抑制作用は濃度依存的に強くなり、茶カテキンEGCGと「べにふうき」メチル化カテキンは細胞内の脂肪蓄積を抑制すると考えられました。
また、培地に茶カテキンEGCGと「べにふうき」メチル化カテキンを加えたことにより3T3-L1細胞の分化は濃度依存的に抑制され、上記の脂肪蓄積抑制効果は、脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を茶カテキンEGCGや「べにふうき」メチル化カテキンが抑制するため、と考えられました。

出典 織谷ら(森永製菓)「べにふうき」緑茶による脂肪蓄積抑制の作用機序 2009, 56(7), 412-418, 日本食品化学工学会誌

脂肪合成能への効果
カテキン成分の吸収性

③茶カテキンEGCGあるいは「べにふうき」メチル化カテキンを経口投与したラット血漿中の緑茶成分濃度を測定したところ、「べにふうき」メチル化カテキンは茶カテキンEGCGよりも投与量が1/4未満であったにも関わらず、血漿中の濃度はほぼ7割程度となっており、「べにふうき」メチル化カテキンは、茶カテキンEGCGよりも吸収率が約3.2倍高いと考えられました。

4.「べにふうき」の血圧上昇抑制作用

緑茶の茶カテキン(EGCG)には、高めの血圧を抑える生理活性化があることが以前より知られています(※)が、「べにふうき」の血圧調節機能についても評価しました。
その結果、「べにふうき」メチル化カテキンには、血圧の上昇を抑制する活性があることが見いだされました。

※ Haraら 農芸化学会誌1987, 61(7), 803-808

−1 酵素学的実験

ACE(アンジオテンシンT変換酵素)は、不活性型のアンジオテンシンTを血圧を高める作用を持つアンジオテンシンUに変換する酵素で、いくつかの抗高血圧症薬の標的とされています。茶カテキンであるEGCGと「べにふうき」のメチル化カテキンのACE阻害活性を評価しました。

・実験目的と方法

ACEの活性は、切断されると蛍光分析によって濃度測定ができるようになる合成基質Hippuryl-His-LeuとACEとを混合する実験で測定しました。Hippuryl-His-LeuとACEとを混合した水溶液に、茶カテキンEGCGあるいは「べにふうき」メチル化カテキンを0〜1mMの終濃度で加え、ACEの活性が阻害される度合いを測定しました。

血圧を上昇させる生体の代表的なメカニズム  レニン・アンジオテンシン系

・実験結果と考察

EGCGとメチル化カテキンはいずれも濃度依存的にACEの活性を阻害しました。
メチル化カテキンはEGCGと比べ、より強くACEの活性を阻害しました。

−2 臨床研究

・実験目的と方法

次に、ヒトに「べにふうき」茶抽出物を飲用してもらい、血圧の変化を観察しました。メチル化カテキンを1.72%含むべにふうき茶葉2gを煎じた茶抽出物を、10名のやや血圧が高めな30歳から57歳の方に8週間飲用してもらいました。飲用開始前の収縮期/拡張期血圧と8週間後の血圧を比較しました。

「べにふうき」メチル化カテキン飲用による血圧変化

・実験結果と考察

収縮期血圧が飲用8週間後に飲用前と比べ有意に(p<0.05)低下しました。
先に行った酵素学的実験の結果から、「べにふうき」のメチル化カテキンがACEを阻害することで血圧の上昇を抑えたものと考えられました。

参考文献 Kuritaら(MORINAGA & CO.,LTD.) , antihypertensive Effect of Benifuuki Tea Containing O-Methylated EGCG 2010, 58(3), 1903-1908, J. Agric. Food Chem.

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